Heroic Honey
永四郎は、割と冷徹なヤな奴って思われることが多い。
わんも、付き合う前まではそう思ってた。
やてぃんなまは違うんどー。
あにひゃー、口も人当たりも悪いけど、本当は良い奴。
トイレに入ろうとしたら、
「知念ってさー」
と、知らない声が、わんぬダブルスパートナーの名前を言った。
「なんか顔でーじ不気味やっし。歩くホラーやさぁ」
思わず足が止まって、入るタイミングを逃してしまった。
もう1つの声が同意するように笑う。
「だーるばぁ!」
「つかテニ部いきりすぎやっし」
「デブもいるしなーぁあにひゃーしんけんテニス出来るんばぁ?」
「あっははぁ!部長もいけすかねーらん」
「あー、木手?だっけ?髪型謎の」
「謎、謎!あにひゃーバイらしい」
「はぁやー。じゃぁ男もいけるってのか、怖い怖い」
明らかに、テニス部の悪口だった。ムカつく。入って殴ってやろうかとも思ったけれど、なんだか身体が動かない。
知念は確かに顔怖いけど、でーじ良い奴だし、慧クンだってあの巨体を活かしてレギュラーの座を保持してるし、永四郎は私服でーじお洒落なんだから!……デートの時とか、永四郎が大人っぽくて横に並ぶ自分が恥ずかしくなるくらい。
そもそも、何にも知らないやつらにとやかく言われたくねーらん!
……って、反論はぽんぽん頭の中に浮かんでくるのに、いざそれを言う勇気も、奴等の前に出ていく勇気もなかった。
「あと、誰だ、平古場?」
突然自分の名前が耳に飛び込んできてはっとする。
「あーロン毛金髪の」
「いなぐみてぃーやさぁ」
「確かに」
はははという笑い声が聞こえて、かぁっと身体が熱くなった。結構気にしてる事をさらっと言われてしまった。歯を食いしばった瞬間、右肩にぽん、と手が置かれた。驚いて振り返ると、そこには永四郎がいた。
「え、永四郎……」
「そこで待ってなさいよ」
ぐいと押しのけられてよろけると、永四郎はあっさりとトイレの扉を開けて中に開けた。さっきまで響いてた笑い声がぴたりと止まる。気まずい空気が、外にいるわんの肌にもひしひしと伝わった。
「これ以上、うちの部員と部活のこと、悪く言ったら……どうしてやりましょうか?」
冷ややかな永四郎の声の直後に、中で喋っていたのであろう男子2人が後ろを顧みず足早に出て行った。
「行きましたか」
扉が開き、トイレから出てきた永四郎は去っていく2人の背中を睨んだ。
「あ、永四郎……にふぇーど」
「あんな雑魚、別に何ともありませんよ」
わんがちびとびびってしまった相手を“雑魚”って言いきってしまった永四郎にちょっとびっくりして、頭をぽりりと書いていると、
「まぁ、」
「え?」
「好きな子の傷ついてる顔は見たくはありませんからね」
頭を引き寄せられ、一瞬のうちにおでこにチュっと口づけられた。
「っフラー!」
慌てて周りを見回すも、見ている学生はいなかったようでほっとする半面恥ずかしくてどうしてやろうか!と思った。きっと睨みつけたら、したり顔の永四郎は教室の方へ歩き出してしまった。
「ではまた、部活で」
悔しくてわんも永四郎のようになんともなかった風に教室に向かった。つもりだったのに、教室に戻って席に着くと、前の席の裕次郎が振り返るなり、
「トイレでHなことでもした?」
とにやにやして言った。
「な!してねー!」
永四郎は比嘉ぬヒーロー。
そんでもって、わんぬヒーロー。
さしずめわんは、ヒロインかや……?