焦らさないでこっち向いて
わんの家庭教師の先生の名前は、平古場凛。
凛せんせいは、でーじちゅらさん。
現役の大学生で、どっかの私立に通ってるらしい。
偏差値は、「まぁ、気にするな!」って笑うくらいだからそんなに高くはないんだと思う。
で、アホでドジ。
たまに、今日は授業じゃないって日に突然来たりしてる。驚いた表情のあんまーを見てから自分が日にちを間違えたのに気付くんだよね。それから慌てて「間違えました」って照れ笑いして踵を返す。
授業はそれなりにしてくれるし、わんぬ成績も右肩あがりだから、あんまーは寧ろそんな天然ボケなとぅくるが気にいってるみたいやしが。
あんまーにはあびらんねーけど、わんは凛せんせいがでーじしちゅん。
性別とか関係ねーらんど。
そんで、受験前に「合格したらカラオケつれてって」ってあびた。凛せんせいは笑顔で承諾してくれた。
わん絶対合格する。
凛せんせいの笑顔のために!
凛せんせいとのカラオケデートのために!
*
「おー。裕次郎。待った?」
「ううん、全然!」
「んじゃぁ行こうかー」
わんは無事に第一志望に合格して、凛せんせいとのデートを勝ちとった。
デートでーじ楽しみだった。やてぃん緊張。
今日、わんは告白する。
だって、もしかしたら、もしかしなくとも、今日が凛せんせいと過ごす最後の日になってしまうかもしれない。高校生になったら前みたいに家まで教えに来てくれなくなっちゃうかもしれない。
どきどき。どきどき。
せんせいと二人でデートって理由だけじゃなく、他の色んな理由でわんは緊張しまくった。
「裕次郎、歌うめー……」
カラオケに入ってからとりあえず自分を落ち着かせる為にドリンク飲みまくって十八番を歌いまくった。やけになったら割と落ち着く。
「りっ、凛せんせいが残念なだけばぁよ」
「わじるど」
凛せんせいは可愛いなりして歌は残念だった。別に幻滅とかしないけど。ギャップ萌えだよせんせい。
「なに、なになに、緊張してるの?」
突然凛せんせいはソファの上をするると移動してわんの横までやってきた。
「な、なんで」
「なんか、初めて会った時みたいな顔してたよ」
いつも勉強机に向かうときと同じくらいの近距離。なのに、勉強机に向かってないだけですごくドキドキした。顔がすぐ傍にある。触れた肩先が熱い。
「だってそりゃ、緊張するし!せ、せんせいとカラオケだなんて」
「だよなー。わんも緊張する。教え子と遊ぶなんて。今まで先生と生徒だったのになぁ」
「せんせいも……?」
「当たり前やっし。やてぃん、やーはもう、わんの生徒じゃねーもんな」
「あ……」
「今日からは、友達やさぁ」
「う、うん!」
「ほら、今日は先生がおごってやるから好きなだけ歌え!」
結局、せんせいは殆どマイクをとらずに、タンバリンを握り締めて騒ぐだけ騒いでくれた。
せんせいだけど、もうせんせいじゃない。
今日からはもう、友達。友達って言ってくれた。
ってことは、突然電話とか、メールとかしてもゆたさんかや?遊びに行こうって誘っても?それなら、告白なんてするよりも、お友達でいた方がいいのかな……。
歌ってる間も悩みは尽きず、けど無常にも過ぎゆく時間のせいで10分前のコールが鳴った。
「どうする?延長する?」
わんは少し迷ってから首を横に振った。
「んじゃぁ出る準備するさぁ」
受話器を置いたせんせいは、マイクを充電器のところへ戻して、上着をひょいと羽織った。
「ま、待って」
「ん?」
「あ、のね」
隣の部屋から、アニメソングが聞こえてくる。こ、こんな状況でいいのかな、場所も場所だし、BGMすらロマンチックさのかけらもないけど。
「ぬーした?トイレかや?」
顔を覗きこまれて顔が赤くなる。やっぱりだめ。
「せんせい、しちゅん」
くぬ気持ちはだれにもとめられん。
「はーぁ?」
凛先生は、少し強張った笑顔で一歩下がった。
「ゆくしじゃねーらんど。わん、凛せんせーが好きなの」
ますます顔が熱くなる。薄暗くて良かった!恥ずかしい。驚きと戸惑いの入り混じった色が凛せんせいの顔で渦巻いている。
「んーとそれは」
「しんけんやっし」
そりゃぁ教え子しかも男の子に告白される事態は想像して無かったんだろうなー。
「お、おお、おう」
「……わん大学生なの、で裕次郎はこの春から高校生ね」
「説得しようとしてる?諦めろ、って」
「高校は楽しいところさぁ、もっと好きになる人だって出てくるかもしれない」
「……ぅ」
「泣くなよ」
「泣いてねーらん」
「それで、高校入って、1年経ってもまだ俺のことしちゅんって言えるなら付き合ってやるさぁ」
「えーっ!」
「何に対する“えー”かや?」
「ねぇズルくない?本当はせんせい、わんが高校入って楽しくなっちゃってぽいってされるのが厭なんじゃないの?」
「っちげーし!」
「わんのこと好きじゃなかったら1年も待てないよね?それとも好きでもなんでもないから1年待てるの?」
ちょっと強気の態度で出たら凛せんせいは一瞬でたじろいでしまった。
「せんせい、わん本気でせんせいが好きなの。途中でぽいってしたりしねーらん、誓う!誓うから!だから付き合って!」
おしておしておしまくれ!わんの中の本能がそう叫ぶ。おしたら落とせる!わんはせんせいを彼女にしたい!
「うぅー……」
「せんせい、」
「だーっもう、わかったから、先生って呼ぶな!」
「え」
「もう教え子じゃねーらん。それに、なんか先生って呼ばれるとイケナイことしてる気がして落ち着かなくなりそうだから……もう呼ばないなら、いいよ」
「呼ばない!呼ばない!」
ごまかすかのように頭をぼりぼりかくせんせいにわんは抱きついた。
「ぶ」
勢いでキスまでしてやると、フラーと頭を叩かれた。
「あがー」
「やーまだ中学生のくせに、ませ過ぎやっし!」
「普通だぁる。あ、知ってる?キスすると1秒間の間に何個のウイルスがいったりきたりするでしょう」
「気持ち悪いことあびんな!ほら、行ちゅん」
ぐいと腕をつかまれて半ば引きずられる様にしてわんはBOXを後にした。
ねぇ、せんせ、
好きな気持ちは本当だから、
だからもう一回ちゃんとチューさせてほしいさぁ。