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二人だけの約束


数年前、
夜中に知念とこっそり家を抜け出したことがある。





「上手く抜けれたかや?」
「ばっちりー。行ちゅんどー」
「うんっ」
二人で手と手を取り合い、公園までダッシュ。
別に家出という訳ではない。
相手が知念なのに、深い意味はない。
ただ、流れ星を見る為だけに、二人で家を飛び出した。


「うっわ、星きれー」
「じゅんになー」
空の端から端まで星でいっぱいだった。少し汗ばんだ手を握り合い、冷たい夜の空気を胸いっぱいに吸い込む。
「知念、流れ星、見えるかなっ?」
「さぁ?わからねーらん」
きらきらと輝く星達。そのどれが空を滑り落ちるのか、全く見当もつかなかった。知念は隣で黙って星を眺めている。ぎゅっと手を握ったまま。
「でーじきれーね」
「うん、やてぃん、流れ星まだかな」
「知念も期待しちゅうかや?」
「だって、凛くんが見たいってあびたから、どうしても見せたくなってきたんどー」
「ふ、ふーん……」
知念はちらりとわんを見る。
見せたいって……無理だろ?
「凛くん、」
「ん?」
知念がわんの髪を梳いてくれる。
ちょっとどきっとした。
「凛くんの髪の毛、暗闇に溶けちゃいそう」
黒い髪を指に絡ませる仕種が、凄いわんの心を擽る。
「何、で……なま、うんねーるくとぅ」
流れ星見に来たのに。
「ムード?」
「はぁ?」
「大人はそうするんじゃないかや?」
「し、知らねー」
だってわったーまだ小学生なのに。知念はいつも不思議なことを言ったり、したりする。
「大体、男同士っ!」
「あぁ、そっか」
「そっかじゃねーらん!ったく……」
「そうやってすぐぷりぷりわじるんだから」
知念はにやっと笑って前髪を掻き上げた。
また静まり返った夜中の公園に、知念と二人。
「流れ星……まだかな……」
「っあ!」
知念が大きな声を出して、指差した。
「ななな何?!」
「なま、星が落っこちた」
「嘘っ?!」
きらり、って、星が落っこちる。
立て続けに、何度も。
「すげー……」
「きれーね、凛くん」
知念がぎゅっと手を握る。
「うん」
わんも握り返す。
じっと空を見上げながら。
「ね、記念に」
「ん?」
「書いとこっか」
ランドセルの奥底から持ち出してきたペン。
滑り台の端っこに、二人の名前と年月日を書いた。
「落書きー」
「うん、記念っ」
知念の横に書いた名前をなぞる。
「わんが大人になっても、残ってるかな?」
「また確かめに来よう」
知念は笑った。
「大人なったら、また二人で」
「……うん!」
わんも笑う。
また二人で流れ星を見に来よう。
そして、まだこの落書きが残ってるか見に来よう。
そう約束して、わったーは家まで競争した。
今日だけ、知念はわんより足が速いけど、負けてくれた。

 

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