「真っ昼間から抱き合うなんて、士道不覚悟だ」
とか、
「惚れた腫れたを男同士でするなんて気色が悪い」
とか。


普段の「鬼の副長」ならそう言う。そして誰にも有無を言わせないんだ。自分自身が規律と思ってるからかな?
でも、僕は知っている。
僕だけが、彼等の秘密を知っている。




「コラ!総司、見廻り行ったのか?!」
日向ぼっこしながらうとうととしていると、怒声を飛ばしながら土方さんがやって来る。僕のことをこんな風に怒れるのは、この人しかいない。僕は特に体勢を変えず、片目だけ開いて言ってやった。
「局長が、体調悪いなら無理するな〜って」
「ったく、近藤さんはすぐこいつを甘やかすから……」
土方さんは呆れ顔で溜息を吐く。……こんなに怒ってばかりいたらいつか禿げてしまうんじゃないかな?
「甘やかされてなんかいませんよ。ほんとに体調が優れないんです」
「何?」
僕が肩を竦めて言うと、土方さんは顔色を変えて僕の額に手をやる。いや、やろうとしたところを、僕は避けた。
「何するんです」
「熱でもあんじゃねぇのか?本当に体調悪いんだったら部屋行って寝てろ」
「嫌ですよ。どうせ山崎君に四六時中僕のこと監視させるつもりなんでしょ?」
「お前はどうしてそう捻くれた考えしか出来ねぇのか……」
土方さんは悩ましげに息を吐き、僕を部屋まで無理矢理連れて行った。そしてわざわざ布団まで敷いて、寝る準備を整えてくれる。僕はそんな土方さんを横目に見つつ、外の風景を眺めた。もう、暖かくなってきている。桜はいつの間にか散り、青々とした葉がいっぱい揺れていた。
「おい、総司」
振り向けば、土方さんは僕に枕を投げてくれた。準備が整ったらしい。
「早く寝ろ」
「え?土方さんが寝かしつけてくれるんじゃないですか?」
「……あまり俺をからかうな。俺はな、忙しいんだ」
「やだなぁ、僕の面倒見るのも土方さんの役目でしょう?」
「いつ誰がそんなこと決めた?」
「さぁ?」
僕が肩を竦めると、土方さんは怖い顔して早く寝ろと怒鳴った。
「怖い怖い」
「さっさと寝て、早く治しやがれ」
「……土方さんの方がよっぽど疲れた顔してますけど」
「俺は忙しいんだ」
「知ってますよ」
僕は素直に横になると、土方さんは枕元で胡座をかいた。
「何です?」
「寝るのを見届けてから行く」
「何で?」
「お前は勝手に何処かへふらっと行きそうだからな」
「酷いなぁ、土方さんは」
僕は声を出して笑い、目を閉じる。暫くすると、枕元から土方さんの気配が消えた。足音が聞こえなくなるのを待ってから、僕は起き上がり、外へ出た。
「……暖かいなぁ」
太陽の眩しさに目を細め、桜の木の傍まで歩く。落ちている青い葉を拾い、何となく幼子みたいに集めてみた。
「……はぁ」
「お、総司」
何枚か拾っていた所に、近藤さんが通り掛かる。こんな時間に外に出ていたということは、きっと散歩でもしていたのだろう。
「近藤さん」
「具合はどうだ?」
「大分良くなったみたいです」
「うむ。安静にしておけよ」
「はい」
僕は素直に頷き、近藤さんの傍まで行く。今は誰もいないし、僕だけ一人占め出来る。
「総司、葉っぱを集めていたのか?」
「えぇ。何となく」
「もうすぐ夏になるな……立夏が近いからな」
「そうですね」
「そうだ、立夏が来る前にトシの誕生日が来るな」
「……そうですね」
「何か用意せねばな」
「……」
僕がいても、この人はいつも土方さんのことばかり言うんだから。
妬けるなぁ。
「じゃあ、僕はここで」
「おぉ、ちゃんと休めよ」
「そうだ、近藤さん」
僕は持っていた葉を近藤さんに押し付けた。
「これ、あげます」
「そうか。有難う」
「いえ」
「懐かしいなぁ。総司は昔もこうして葉っぱをくれたな」
「昔の話ですよ」
「昨日のことのように思い出すよ」
「ふぅん」
なら、僕に振り向いてくれたって良かったんじゃないの?なんてね。




夜。厠に行った後、何となく近藤さんの部屋に寄った。話をしたくて。僕と近藤さんだけの。
だけど、
「んっ……」
近藤さんの部屋から、囁くような声と、微かな物音が聞こえて、僕は足を止めた。
立ち聞きなんて悪いと思うけど、僕はそこから離れられなかった。
「近藤さ、んっ……」
「トシ、昔みたいに呼んでくれないか?」
「かっちゃ……ぁ、あっ」
「っトシ……!」
「かっちゃん……っ」
なんて密やかな行為なんだろう。睦言を囁きながら、彼等は昼の仮面を取り払い、欲望のままに繋がっている。僕しか知り得ない、彼等の秘密。
(近藤さん……)
近藤さんと土方さんは、男と男の夫婦だ。僕が剣を握り始めた頃から、既に出来上がっていたらしい。僕はそんなこと露知らず、近藤さんを慕っていた。まぁ、今もだけど。
「あっ……!かっちゃん、かっちゃん!」
「トシ、もうっ……!」
耳を澄ませば、くちゅくちゅと厭らしい交接音が聞こえてくる。今じゃもう慣れっこだけど、昔なら嫌で嫌で耳を塞いでいた厭らしい音。男同士でこんな行為をするなんて信じられなかったけど、僕はもう、そんなことどうでもいいと思ってしまう位、彼等の行為を知りすぎてしまった。
「ん、あっ!はぁっ……」
土方さんの色っぽい喘ぎ。加速する肉体がぶつかり合う音。そして、
「あ、あ、あぁっ……!」
「くっ……!」
達した。二人がどんな愛し合いをしているか手に取るように分かる気がして、薄ら寒くなった。
(もう、行こう)
彼等に気付かれる前に。僕はさっさと行くしかない。
彼等の秘密は、僕が握っているのに。
(何で僕がこそこそしなくちゃいけないんだろう)
馬鹿馬鹿しい。




「大丈夫か?総司」
「ちょっと熱が出ただけです。少し休めば何とかなります」
土方さんの冷たい手がひやりと僕の額に触れる。
「熱いな」
「もう平気ですから。土方さんも早く仕事に戻ったらどうですか?」
「だが……」
僕はじっと土方さんを見つめた。土方さんは何度も僕の体調を聞いた後、渋々立ち上がる。
「後で山崎君に薬を持って来させる」
「一君がいいな」
「あいつは忙しいんだ」
「ねぇ、土方さん」
部屋を出ようとする土方さんを呼び止め、僕は言った。
「疲れた顔してますね、酷い顔。痣もあるし、稽古のし過ぎですか?」
「痣?昨日は稽古は……」
「首筋に」
土方さんはぱっと顔を赤らめ、首筋を押さえる。僕はくすりと笑い、寝返りを打った。










5月5日は土方さんの誕生日!!おめでとう^^
前から書きたいと思ってた土方受けを書けてほくほくです(・ω・)
(2011 05 05 時雨)