言伝を頼まれた。

いつも陽気でSっ気が強い沖田さんからは考え付かないほど、切実な眼差しだった。愛しさと、会えないことへの苦痛が入り交じる声音。嗚呼、この人は、本当に斎藤さんを愛しているのだと、心から人を愛せる人なのだと、心に響いた。

沖田さんの傍を離れるのは心苦しかったが、俺以外の人に言伝を頼みたくなかった。聞いた俺だけがあの言葉の重みが分かるのだ、だから看病の方を人に頼んだ。

屯所に着いて、他の報告を一通り済ませたのちに、俺は斎藤さんを引き止めた。
「なんだ」
自分が呼び止められた理由がわからないからなのか、それとも普段からだったか、少し不機嫌そうな顔をされた。
「言伝を頼まれました」
「誰から」
「沖田さんからです」
一瞬にして斎藤さんの表情が強張る。
「それで、」
「……愛している、と」
斎藤さんは左手で口元を押さえ俯いた。泣いていた。あまり表情を崩したことのないお人が、声を殺して泣いていた。
「……山崎くん」
「はい、」
「もし、彼のところに戻る機会があったなら伝えてくれるか」
「はい」
「俺もだ、と」
「もちろんです」
言い切るなり、斎藤さんは踵を返して自室へ戻っていった。
それほどまで愛し合う2人が何故上手く結ばれないのかと世の中を呪わしく思う。あるいは、思いが通じあっている時点で、彼らは結ばれているのかもしれないが。2人が幸せになればよいのにと叶うはずもない願いを抱いて、涙がにじんだ。



せめて来世では幸せな形で結ばれるように。
そしてまた俺も、何があっても貫き通せるような恋ができたら。










(2011 01 22 jo)