「一君、何こそこそしてるの。入ってきなよ」
部屋の外から僕の様子を窺っていて、なかなか入ってこようとしない君にしびれを切らし、僕はとうとう声をかけた。
すると、観念したみたいに中に入ってくる。
「分かっていたのか」
「当たり前。僕を何だと思ってるの」
ニヤリと笑ってやると、君も微かに笑みを浮かべた。
「傍に、」
「あぁ」
手招くと、素直に傍に来てくれる。僕はすっかり血の気をなくした手を差し出した。
「……握っててくれるかい?」
「……気分が優れないのか」
「風邪気味なんだ」
早口にそう告げる。本当は君を布団に引き込みたいんだけど。
「駄目ですよ、沖田さん」
僕の心を見透かしたみたいな発言をして、山崎君が部屋に入ってきた。
「……げ」
「げ、じゃありません。薬と白湯をお持ちしました」
「また石田散薬?やだなー」
「嫌がらずにお飲み下さい。副長からも言われていますし」
腹立つ喋り方。僕は山崎君を睨みつける。山崎君は臆する色もなくただ黙って僕が薬を飲むのを待っていた。この前、僕が嫌になってこっそり捨てたのがばれてしまったからだ。
「やな奴」
「どうとでも」
「ったく」
僕は舌打ちして一君の手を握る。
「何だ、そんなに薬が怖いのか」
「違うって」
この鈍感。そう言いたくなった。僕は薬を白湯と共に飲み干し、顔をしかめる。
「相変わらずの味だね」
「お粗末様でした」
山崎君は手早く片付けると、さっさと部屋を出て行った。全く、腹立つなぁ。
「……総司」
「ん?」
「本当に、風邪か?」
「心配してくれてるの?ありがと」
「……総司」
「大丈夫だから」
君を安心させる為に、僕は起き上って抱き締めて上げた。
「元気だよ」
「……ならいいんだが」
「心配性だなぁ、一君は。ま、土方さんやあの子に比べたらマシだけどね」
「心配したら、悪いか」
僕はまじまじと一君の顔を見つめる。君は恥じらって、すぐに外方を向いてしまったけれど。
「仮にも好きな奴だ。心配しないことはないだろう」
「……一君」
びっくりした。まさか君から好きと言われるなんてね。
ま、知ってたけど。
「……ありがとう」
唇にじゃなく、ほおに唇を寄せる。
「きっと、良くなるから」
「……あぁ……」
触れた所が瞬時に熱くなった。
「……顔、赤いよ?」
「黙れ」
ま、そんな所がかわいいんだけどね?





(2011 02 05 時雨)