目が覚めたとき、時計は昼過ぎを示していた。
くしゃくしゃに乱された真っ白なシーツが、交わったあとの嫌なにおいと共に己の体にまとわりついているのにマルコは眉根に皺を寄せた。
隣にいたはずの峨王の姿は見えない。朝目覚めたときに隣に誰もいないのは少し淋しいから起きるまでいてほしいといつも言うのにあれには学習能力が無いのか、また例のごとくマルコはベッドに取り残されていた。ちょっぴり広く感じるベッドにマルコは顔を埋める。
耳を澄ますと微かなのしのしという足音がベッドに伝わって、やがて鼓膜を打つ。家のどこかにはいるのかと安堵の息をもらしていると、それはこちらの方へと近づいてきているらしく段々と大きくなってくる。荒々しくドアが開けられたのと同時に
「昼過ぎたぞ」
という峨王の声が降ってきた。
「……知ってる」
低血圧で朝は弱いうえに昨夜の行為はいつも以上に激しかったのだ、マルコが恨めしそうに顔を上げて睨むと、起きれないのも無理はないかと峨王は嘲笑う。
「あーいたいーいたいー」
「立てないのか」
「……動きたくない」
みじろぐだけで、秘孔から何かが溢れてきては一筋、二筋、下肢を濡らすのがわかる。甘美な痛みに目を閉じて睫毛を震わせると、峨王がベッドの縁に腰を下ろし、マルコの腰をいたわるように撫でた。
峨王の体重でベッドが大きく沈み、ぎしぎしとスプリングが悲鳴をあげている。座るだけでこの有様じゃぁ……もうこのベッドも限界だよなぁとマルコは我が家に来る運命となったベッドを哀れんだ。
「あれ、」
「なんだ」
ふと、峨王がエプロンをしていることに気が付く。明らかにきつそうで、それどころか、このごつい男にエプロンというアイテムがそぐわず、やっとのことで笑いを堪える。
「なんでそんな、しかも俺んだし」
近寄って峨王の腰に手を回して顔を寄せると、良い匂いがした。
「料理したの?」
「悪いか」
「いや、なんちゅーか、生肉しか食べない峨王が、まさか」
「何も、用意してやれなかったからな」
「クリスマス?別にいいのに」
可愛いとこあるじゃーんとにやりと笑うと、照れたのか怒ったのかわからないが、早く着替えろと立ち上がってしまった。その後ろ姿が少し滑稽でまた笑みがこぼれてしまう。
「まずくても食え、こんなことは二度としない、」
「有り難くいただきます」
多分如月あたりの根回し だろうなんて思いながら、気怠げに起き上がったマルコは、峨王、と呼び止めて手招きする。
峨王のごつごつした手。その手を、峨王のとは対照的な華奢で骨張った己の手でとると、マルコは(毛布を引き寄せて下半身を隠しただけの姿は別として)いかにも紳士らしく、
「Buon Natale」
と、軽く口付けた。いったいこの手でどんな風に料理したんだろうと想像しただけで笑みが……―――こぼれたところを見られたら、機嫌を損ねた峨王に朝から犯される羽目になりかねないのできゅっと唇を横に引き締めた。
峨王は、口付けを受けてのっそりと自ら跪きマルコの手に自らの唇を押しつけた。忠誠を誓うかのようなそれにマルコはどきりとする。
「好きだ」
下から真っすぐに見つめてくるその野性的な視線に、眩暈がするほどの胸の高鳴りを覚えながらマルコはようやく言葉を絞りだした。
「ばか……そんなこと、知ってるっちゅう話だよ」
「早く着替えて来い、」
本当は恥ずかしいのだろう、くるりと背を向けた峨王の耳が赤かったのにマルコは気付く。可愛いなぁと恋人をいとおしむ気分になったが、やっぱり峨王にエプロンが似合わなさすぎるので、その後ろ姿を見送りながら声を殺して笑った。





Lo soはイタリア語でI knowちゅー意味です多分。
個人的に峨マルは長編でどろどろした感じでいきたかったんですが、クリスマスなのでとりあえず書いてみようという気になりました。しかしなんてほのぼのなんだ……(;-_-)でも峨王はああみえて料理適度にできる人だといいwwwだって弟妹いるし、ね!←
優しいおにーちゃんでありますように←
(2009 12 25 jo)