阿含と付き合っている事を告げた。
だからと言って何に動じるという風もなく、武蔵はただ、そうか、と短く言った。男同士でキモチワルイとか思わないのかとわざとらしく笑いながら言ったら、そんなの好きだという気持ちの前では関係無いだろ、と意外にもあっさり返された。
嗚呼、俺はコイツを愛してやれればよかったのに、と、阿含と付き合ったことを初めて、少しだけ、後悔した。









付き合っているのかと問われれば付き合っていると答えるが、実際のところ、阿含との関係は曖昧なままだった。時に優しく、時に激しく、俺は扱われた。
「まぁ、薄々感づいてはいたけどな」
「ケケケ、鈍そうなお前が?」
「鈍いんじゃない、気付くことには気付く。ただ気付いたことを周りに悟られないだけだ」
「よく言うぜ」
ハッと鼻で笑うと、真面目な顔のまま武蔵がぬっと手を伸ばしてきた。
「ンだよ」
「いや、」
その指が、俺の髪を無理に梳いた。
「……ただ、そうじゃなかったらいいとずっと思ってた」
「何が」
「お前が阿含と付き合ってること」
「別にいいじゃねェか」
「まァお前が誰と付き合おうが俺の知ったことじゃねぇが、お前はそれでいいんだろ」
「はっきり物を言え、遠まわしじゃわからねェよ」
「お前はそれで、幸せなんだろう」
幸せなんだろう、そう問われて、俺は口をつぐんだ。武蔵の言う、‘幸せ’が俺にはよく分からない。求められれば、俺はそれだけで良かったから。
武蔵は俺が黙ったのを見て、無言の肯定だと受け取ったらしく、
「なら、それでいい。……それがいい」
と言って、また髪を梳いた。
「もう、やめろよ。女にするみてェなことすンな」
髪を梳く手を払いのけると、逆に俺の手首をその手に掴まれた。
「蛭魔、お前気付いてるだろう」
「何の話だ」
「……別になんでもない」
ふ、と手が離れる。俺はその手を追い掛けるように、つい咄嗟にそのごつごつした指に自分の指をするりと絡ませた。普段なら絶対そんなこと御免なのに。阿含とも手を繋いだことがないのにもかかわらず。
「太ェ指だな」
驚いてる武蔵に、適当にはぐらかすうまい言葉が見つからなくて、俺はそんなことしか言えなかった。でも武蔵は大して気にする風もなく、
「お前のは女みたいに細いな」
と笑った。
「るせェ」
武蔵の手のあたたかさが、優しかった。ずっと繋いでいたいと思ってしまう程に、俺はそのぬくみを手放したくなくなった。
求めようとしないそのストイックな手が、俺にはたまらなく切なくて、愛おしい。
















「その咎は死にすら値しない」の前のお話みたいな感じで。武蛭。でした。激しく求めてくる阿含に自己の存在意義を見出し安心する一方で、あまりにもストイックな武蔵にも心が揺れてしまえばいい!よ!板挟みだーひゃっふーい!(2010 09 22 jo)