ガチャン。
ドアがしまる音がして、俺は玄関へと赴く。
「おかえり」
買い物から帰ってきた蛭魔が俺に向かってスーパーの袋を突き出した。
「ちゃんと買えたか」
「俺ァ幾つだ」
さみィと恨めしそうに呟くそれは、俺を押しのけて速足に中へはいって行った。行き先は当然、炬燵だろう。
「……まぁもう少ししたら作るか」
休みの日に料理を作るのは大概俺で、買い物へは蛭魔に行ってもらう。
蛭魔は決して料理が下手なわけではない。一人暮らしが長いおかげなのかある程度は作れるようだ。俺がただこいつに作ってやりたいという理由で休日は押し掛けているわけだが、蛭魔も作るのが面倒らしく、悪態はつくものの買い物には行ってくれる。その間に俺は部屋の掃除をしてやるわけだが。奴は気付いているのかいないのか、分からない。
「今日何にすンだ?」
「食材買っててわかんなかったのか?」
「わかるわけねーだろ」
「シチューだ」
食材を片づけてから、戸棚から一口サイズのドーナツが入った袋を取り出す。
「茶にするか」
炬燵に入って背を丸めているそいつに袋を渡すと、見るなり少し嫌そうな顔をして、
「また甘いモンかよ」
と毒づいた。
「脳の回転には糖分が必要なんだろ」
無造作に開けたあたり、甘いものが嫌いなわけじゃない。素直になればいいものを何故俺がこうフォローしなきゃいけないんだと思う。
「コーヒー淹れるが、どうする」
「……」
「わかった、ブラックだな」
コーヒーメーカーに2人分できるようにセットして、蛭魔の向かい側の席に戻った。
既に1つを口の中に頬張ってもぐもぐさせている。
いつまでコイツの傍にいれるかわからない。いつ追い出されるかと覚悟してはいるのだが、なんだかんだで、甘え、と言うのか、俺に対して気を許している節を目にすると、まだ当分大丈夫そうだ。
「美味いか」
「……」
「ッ」
炬燵の中でがっつん足を蹴られた。無言の肯定だ。
「明日も休みなんだ」
「だからなンだ」
「どっか行かねェか」
「なンで野郎と2人でこの糞寒い中出かけなきゃなンねぇんだよ」
言いながら、こっちを向いて蛭魔はにやりと笑った。どうやらそう満更でもないらしい。
ふあ、とコーヒーの香ばしい匂いが鼻先を掠めた。
「まぁゆっくり茶でもしながら、決めるか」














言葉にしないままに寄り添う、そんな微妙な距離をお互い楽しんでる、そんな2人が好きです。明日やこれから先も、もまだこの関係でいられるか分からないだけに、未来の約束が武蔵にとってはとっても大事だったりとかね。ていうかこの人たちはもう完全に夫婦だろう……(2010 12 29 jo)