※2人が寮住まいということを捏造しています
そのへんを踏まえた上で尚ワタシの妄想に付き合ってくださる方のみどうぞ↓





冬休みが始まる。

寮にいる人間はひとり、またひとりと家族の待つあたたかな家へといそいそ帰っていく。筧は、大きなスーツケースや旅行鞄を持ち寮を出てゆく友人にまた来年なと声をかけ、その背中を見送った。
"かけいー、今年、一緒に残らない?っていうか残ってほしい!デス!"
終業式の日、水町は筧に言った。
"我儘って思うかもしんねぇけどサ、俺誕生日が大晦日なの、だからその日はやっぱ一番好きな人と過ごしたいっていうかー……"
尻すぼみにもじもじと照れながら言う水町に筧は二つ返事で承諾した。親を説得するのも、理由が(筧的には)不純なだけに嘘を吐かねばならなかったのは少々後ろめたかったが、説得できたらあとはもう日が過ぎるのを待つのみだった。
一番好きな人、か……
水町の言葉を反芻しては筧は思わず微笑してしまう。
恋愛よりも友情を大切にしそうな水町が、自分と過ごしたいと言ったのだ。その事実だけで筧は心臓発作が起きるんじゃないかと思うほどにどきどきした。



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31日をいよいよ明日に控えた30日。
「えー水町今年残るの?」
今年最後の図書館開放日なので、真面目に勉強でもしようと寮からの連絡通路を抜けた時だった。曲がり角の先から水町、という名字を聞いて筧は思わず立ち止まる。そっと顔をのぞかせて様子を伺うと、数人のクラスメイトがすれ違い様に水町に声をかけたらしく階段の半ばで立ち止まって喋っていた。
水町も図書館へ向かうところだったのかこちらに背を向けていて表情が見えないものの、まわりのクラスメイトの様子を見る限り楽しそうである。
「早く教えてくれたらよかったのに!俺らさぁ、年越しパーティするんだよ」
「水町も来る?」
筧は胃のなかにずん、と重たいものを感じた。さすが友達の多い水町だと思う、が、その一方で心が曇る。
「あ、水町くん誕生日大晦日だったよねっ?」
「おっ、じゃぁ年越し兼水町の誕生日パーティってか!いいなぁ!」
せめて先約があると言ってほしい、と願うも水町が口を挟む様子はなかった。
盛り上がっていくその場の雰囲気に、やっぱり水町は俺といるより友達といるほうがいいんじゃねぇか、と水町と一緒に過ごせることを信じて喜んでいた自分が馬鹿馬鹿しくなって下唇を噛む。
「あ、れ」
クラスメイトの一人と筧の目が合う。はっとした筧は、踵を返して来た道を一散に駈け戻った。後方で水町に名前を呼ばれた気がしたが、それでも立ち止まらなかった。
自室に戻って鍵をしめると、熱くなった目頭から何かが落ちた。
わかっていたことだ、水町だって男だし、女のほうがいいに決まってるだろ、俺なんかといるよりも、あいつらといたほうが楽しいのは当たり前だ……―――
筧はベッドに俯せに倒れこんだ。とめどなく溢れるそれに、シーツが濡れていくのがわかった。



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どんどん、と扉を叩く音で筧ははっと目を覚ました。いつのまにか寝てしまったらしい。窓の外は暗い。体を起こして名前を尋ねようとしたら先に向こうが筧の名を呼んだ。
「かけいー?」
「……水町か?」
「そうーあけてー」
緩慢な動作で、鏡を覗く。目はさほど腫れていないことを確認するとようやく鍵を開けた。いつもならすぐにでも開けるのに、今日は気が乗らない。
「何の用だ」
「明日のことなんだけど」
ああきた。筧はまた弛みそうになる涙腺に顔をしかめた。
「パーティ、だっけか?行くんだろ?楽しんでこいよ」
「へ?」
「俺といるより、あいつらといる方がずっと楽しいだろ」
「何言ってんだよかけい……」
筧が何を言ってるかうまく飲み込めない水町は困惑したように曖昧な微笑をつくった。
「無理して俺とつるむことないし、好きだとか思ってもないようなこと言う必要だってない、俺からはじめたことなんだから、いちいち付き合うことない」
筧はすっと水町から目を背け、すぐに背を向けた。筧の視界がぐにゃりと滲む。
「違うって、かけい、落ち着いて」
「女のほうが、いいだろ、」
あとからあとから、不安に思っていたことが口をついで出た。水町は少し傷ついたような顔をして、筧の背を見つめる。
「かけいは、俺のことそんなふうに思ってた?」
「……」
後ろ手にドアを閉めた水町はゆっくりと筧に近づく。
「かけい、俺は軽い気持ちでおまえの告白を受けたんじゃない」
「……」
「本当に、好きなんだ」
水町の手が肩に触れて筧は身をかたくするが、水町は筧を後ろからだきしめた。
「おれ、本当にかけいが好き。ヘンタイって思うかもしれないけど、欲情するほど好きだよ。 それとも、かけいは嫌?欲情とか、気持ち悪いって思う?」
ふるふると首を横にふる筧を見て、水町は安堵したように微笑んだ。
「だから、そういうこと言うのよそう、信じて、もっと俺を」
「……すまない」
「明日のことね、ちゃんとあいつらに言ったから。ばれるのは流石にまずいよなーと思ったから、かけいの名前出さなかったけどサ」
それにあいつらの話聞いて、俺もかけいとパーティしようって思ったわけ!んで、一緒に紅白見て、鐘聞いて、年あかして、お参り、行こう?
水町がそこまで一通り言い終わるまで、筧はゆっくりと、何度も頷いた。
「かけい、」
水町は筧を自分の方に向かわせ、その顔をまじまじと見つめる。恥ずかしそうに目をそらす素振りが可愛くて水町の頬が弛む。
「もう泣くなよ」
「ん、」
「いやー、でも、」
キレイ、かも
水町は筧の唇にそっと口づけた。



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約束どおり、筧と水町は31日の朝から二人きりで過ごした。
「ンハッ!寒ぃー!」
「意外と混んでるんだな」
日付もかわり、まだ暗いうちに二人は初詣へと出向いていた。はぐれないように身を寄せ合う二人の姿が雑踏のただなかにある。
「鼻赤くなってる」
「かけいもなー」
「ところで、お願いすること決めてきたんだろうな」
「当たり前だろーかけいは?」
「言わない」
「えー!」
「えーってなんだよ。じゃぁお前は言えるのか?」
意地悪く笑う筧に、水町は当然だよと頬を膨らます。
「まずー頭がよくなりますように、でしょー、それからアメフトうまくなりますように、とー、」
指折り願い事を言いあげる姿に、いくつもあるのかよと思わず苦笑いが漏れる。が、俺は水町のこういうところも好きだなぁと心のなかでバカップルさながならことを思った。
「あと、かけいとずーっと一緒にいられますように!」
「は」
筧は恥ずかしそうにマフラーに顔を埋めるや否や肘鉄を食らわせ、新年早々水町は痛がる羽目になった。
("かけいのナキ虫とツンデレが直りますように"、は言わないでおこう……!)





 Happy Birthday!
  and a happy new year!










パソコン向けサイトにうpするの忘れていたので、この機にのせておきます><
(2010 08 12 jo)