やること3つ。
1つ、部屋の掃除。
2つ、夕飯の買い出し。
3つ、……筧を迎えに行く!
「んふふ」
筧が、戻ってくる。
筧がアメリカに行っちゃってからもう1年。夏に一度戻ってくるって言ってたのに、結局忙しくて戻って来れなかった。俺はいいよって言ったけど、やっぱり寂しかった。会いたかった。ぎゅーって抱きしめたかった。おかげで俺は夏休み中ずっと、筧と撮った写真をオカズに抜かなきゃいけなくなった。どんだけ空しかったか分かるかこの野郎!ま、そんなこともあったけど、今回戻ってくるにあたって最初に俺のおうちに寄ってくれるって言うんだ。筧のご両親を差し置いて、俺は一番に会えるってわけ!俺は日本に戻ってきた筧を大歓迎することにした! 考えただけでわくわくする。
「んよしっと!部屋、綺麗になった!ばっちり!」
出しっぱなしにしていたテキストを全部棚に戻して、洗濯物も全部箪笥にしまった。防具もいつもより念入りに磨いた。普段散らかし放題だったのにまるで見違えるようだ。俺の部屋に入ったら、きっと筧は眼を丸くして言うんだ、大人になったな、って。
ヴヴヴ……
「ッあ、いけねッ!」
携帯のバイブレータで俺は現実世界に引き戻された。受信したメールは筧からだった。
『もうすぐ最寄につく』
無機質な文字と簡潔な文体がいつもの筧だった。会えるって日くらい絵文字使ってくれたらいいのに……とは思いながら自分でも顔がにやけているのがわかる。慌てて上着を羽織り、車のカギを持って、俺は部屋を飛び出した。

駅のターミナルにつくと、そこには既に筧の姿があった。
整った顔立ちに筋肉質のひきしまった肉体。壁に寄りかかって缶コーヒーを飲む姿は、実はモデルなんじゃないかと思うくらい様になってた。改札から出てくる人が皆筧をチラ見していく。ふふん残念でした、筧は俺のものですー。
「かけい!」
助手席の窓をあけて呼ぶと、一瞬で気付いた筧が缶コーヒーを一気に飲み干してこちらに歩いてくる。
がらがらがら、と黄色いスーツケースが待ちくたびれた不満を言うように音をたてた。
「遅いぞ、また遅刻か」
「ごめんごめん、」
「かわってないな」
「……おかえり!」
「ただいま」
そう言ってふっと笑った筧を見て、俺の心臓はどくんと跳ね上がる。この感じだ。暫くぶりに感じるトキメキ。
「荷物、多いだろうと思ってちゃんと車で迎えにきたんだ!」
「お前運転できるのか」
「まっかせろー!」
「危なっかしい気もするが……、任せる」
トランクにスーツケースをのせた筧はもちろん、助手席に座ってくれた。

「あれ、」
「何、何?」
「すっごい綺麗じゃないか、部屋」
「でしょでしょー」
まるで別人の部屋だな、と筧は眼を丸くしながら俺の部屋に入った。
「俺だって成長します」
筧は前みたいに、ベッドを背もたれにして座った。
俺はいそいそと部屋のドアを閉めて俺は筧の隣に寄り添うように座る。
「あーん、かけいのにおひ……」
「水町、」
すんすん首の匂いを嗅いでいたら、ぐいと強引に引っ張られた。
「あぼぁ、んぶ」
筧の顔がすぐ目の前にあって、口の中では舌と舌とが絡み合う。
「んぅ、ふっ」
珍しく強引〜♪と思って俺も筧をベッド側に押し倒すようにして抱きしめたら、ぐいと筧は顔をそむけてしまった。
「あ、あり?」
「悪ィ、がっついた」
「珍しく強引だなぁとは思ったけど」
「水町、会いたかった」
「俺もだよ」
紅潮した顔で言われたら、俺が男でも女でも人間じゃなくても、もうやることは1つしかない。
筧をぐいとベッドの方に引き上げた。
「ちょ、待て、無理に引っ張るな、服破れるッ」
「じゃぁ脱いじゃって、俺も脱ぐし」
「お前はいつも脱ぐのだけは早いな」
少しむっとした顔でいうのは照れ隠しなんだろう、筧が服を脱ぐのを俺はお預けをくらった犬のようにそわそわしながら待っていた。ようやく露わになったその肌色に詰め寄ると、筧は素直にぽふんと後に倒れた。
「前よりマッチョになったね」
健康そのものの筧の肉体に指をすべらせると、筧は少しくすぐったそうに
「お前こそ」
と笑った。でも、そこにお互い何をしてたのか知らない月日があった。なんだかもどかしくて、その隙間を埋めようと言葉のより先に行動が先走る。
「ア」
ぐりりと無理やり挿入したら筧は顔を歪めて仰け反った。
「い、痛い?」
「や、いい、はやく」
言い終わらないうちに俺はすぐに腰を打ちつけて奥へ奥へと進んでいく。絡みつく熱が、筧の表情が、呼吸が、鼓動が、何もかもが物欲しげで、俺も夢中になった。
「うー……かけいぃ」
「なっ、さけない声出すんじゃね、ェ、アアッ」
「寂しかったよぅ」
ついぽろ、と本音が出た。今抱いている筧の熱が愛しかった。ようやく抱けた熱を、もう離したくはないって思った。突然動くのをやめた俺を、心配そうな筧の眼が覗き込んでくる。
「筧は、ちゃんと俺のこと思いだしてくれてた?俺はずっと筧のこと思ってたよ、そりゃテストで切羽詰まってるときとかは、ちょっと忘れてたりもしてたけどサ……」
「まぁ、そこらへんは水町らしいな、」
「試合してるときとか、筧がいたらって、思わないことはなかった、同じフィールドで戦って、同じ大学で、教室で、食堂で、一緒に過ごせたらなって、ずっとずっと、」
“つい”の連続が俺をダメにしていく。筧を困らせたくないのに、困らせる様なことばっかり口をついて出る。言ったってどうにもならないのに。
「気持ちだけじゃ、どうにもならないことも、あるって分かってた。寂しい思いさせて、悪い」
「ん……謝ってほしくて言ったわけじゃなくてー、なんていうか、」
「お前がどうしても会いたくなったら言えばいい、今度はちゃんととんでくるから」
筧はそっと手を伸ばして、俺の頭をそっと撫でてくれた。
「筧、好き、大好き」
「お前は、」
よくもそう恥ずかしいことが言えるなと照れた筧は、俺のちゅっちゅ攻撃を拒まずに全部受け入れてくれた。
「わ、わかったから、とりあえずイかせてくれ、」
「やーんずっといれてたい、ポリネシアン?みたいな?」
「馬鹿、もっと、色々やることあるだろ」
「なにが?」
「2人で、デートとか、行かないか。今日じゃなくても明日とか、明後日、とか」
「照れちゃってー!行く行く!行くよ!ところで筧は?俺のこと好き?」
じっと上から見つめたら、逃げ場所がなくて観念した筧は、俺の目をじっと見返して、
「当たり前だ、好きだ馬鹿」
そう言って俺の背中に腕をまわしてくれた。
……――そうしてまた、熱いほとぼりが冷めないうちに、激しく身体を重ねる。

何度か果てて、筧はそのまままどろんでしまった。
「ンハッ、寝そうだねかけい、」
「悪ィ、」
「長旅お疲れ様」
俺はそっと筧の頬に口づけた。
今度こそ、もう困らせたりなんかしないよって。筧だって寂しかったんだよね?俺だってとんでいくし。筧に寂しい思いなんてさせないから。
「ねぇかけいぃ、駿て呼んでも、いい?」





永遠に君の隣にいると誓おう






とっても時間がかかりましたが、ようやく水筧ですー。当サイトでの需要はあまりないです、自己満足です、自己満足の割には、あんまり満足できる展開で、なかった……。もっとこう、筧先生の筧先生らしさが出るお話がかけるようになりたい!
タイトルお借りしました:傾いだ空
(2011 02 04 jo)