「まぁ、くつろいでよ、ね」
「ありがとうございます」
キッドさんの家に招かれた。
いつもの調子で、うちに遊びに来るかい?と問われ、俺は迷うことなく2つ返事で頷き、連れられて来てしまった。キッドさんが鉄馬さんと一緒に住んでいるらしいこのアパートの一室は、男の二人暮らしにしては小奇麗で物も少なかったので拍子抜けした。そこまでは良かった。キョロキョロするのも失礼だろうと思って、腰を落ち着けてじっとしていようと思うと、逆に落ち着かなくてそわそわしてしまう。大好きな先輩の前で情けないとは思いつつも、そわそわしてしまう自分を抑えられない。
というのも、大好きな人の家に遊びに来れたという事実に、更に輪をかけて俺を落ち着かせない要素がもう1つあった。
同居人の鉄馬さんが外出中なのだ。
キッドさんと密室で二人きり。邪魔立てするようなものも無く、第三者の目を気にする事もないその空間は、俺の緊張を煽った。
「陸、紅茶大丈夫だよね?」
「え、あ、はい」
キッドさんはキッチンからふらりと出てきて、淹れたての紅茶を目の前のテーブルに置いた。
「りーく」
わざわざ俺の隣に座ったキッドさんは、俺の耳に口を近づけて囁いた。甘えるような声音が鼓膜をくすぐる。
「ふたりっきり、だね」
「そ、そうですね」
「ねェ、陸?」
コチ、コチと時計の秒針だけが冷静に音をたてている。冷静を装ってはいるものの、俺の心臓は早鐘状態。またそうやって、この人は俺をからかうんだから!
「だ、だめですよ、何もしませんよ!」
「陸だって期待してる癖に」
「鉄馬さんがいつ帰ってくるかわからないじゃないですか!」
期待しちゃだめだ、頭でわかっていても、自然と顔が紅潮する。
じりじりとにじりよってくるキッドさんの額と俺の額がコツンと音を立ててぶつかった。
近い。呼気と呼気が熱くまじりあう程に、距離が近かった。
「こんなに赤くなっちゃって」
「き、キッドさ、」
どうしたらいいかわからず自然と身体をこわばらせていると、途端にキッドさんの身体がぱっと離れた。
「……陸って、すぐ本気にしちゃって、可愛いんだ」
そう言ってキッドさんは意地悪く笑う。
「ッもう!どきどきさせないでくださいよ!」
俺はいつだって子供扱いされている。子供扱いは嫌だってはっきりキッドさんに言ったのに、相変わらず対応は変わらない。1つしか変わらないはずなのにその差を数倍に見せつけるかのような口ぶりと視線で、いつも惑わされる。俺が決心する間もなく、キッドさんはいつもの調子に戻って茶化すのだ。
「どきどきした?」
「え、も、もちろん」
「そうだねぇ、このまま一回くらいにゃんにゃんしてみるっていうのも良いかもねぇ」
「にゃんにゃん、って……」
横目で睨むとキッドさんはふにゃんと笑った。
「なんだか気が変わってしまいそうだよ」
「気が変わるってどういうことです」
「陸があんまり可愛い反応見せるからねぇ、もっと意地悪してみたくなってきたよ」
また意地悪だなんて何をするのかと不貞腐れてみせようとした瞬間、顎にキッドさんの指が触れた。
「え」
そのまま引き寄せられて俺は、キッドさんに唇を吸われた。何度も角度を変え、しまいには口の中を舌でかき乱された。何が起こってるかわからない俺はただされるがまま。
「茫然としてる」
はっと我に返った俺は、いつの間にかキッドさんの強引な口付けから解放されていたことに気付く。
「な、なんで突然」
「いいじゃないかまぁ。細かいことは気にしないでさぁ」
「いつもはぐらかすのに」
「いいから、ねぇ、陸、しようか」
「何をです!」
「何って……俺に言わせる気かい?」
「だってキッドさんが」
「最後まで、しよう」
それとも嫌かい?なんてとどめをさされては、俺は何とも反論ができず、ぐぅと喉奥で唸ってしまった。キッドさんはそれを聴いて満足げに微笑う。やっぱりいつだって、キッドさんの方が2歩も3歩も俺の先を行く、しかも、余裕たっぷりで。
「ほら、ベッドあがって、」
言われるがままにベッドの上にあがって、俺はキッドさんをちらと見た。
「あの、俺」
「なに?」
「その……男同士って、あんまりわかってないんですけど」
キッドさんは一瞬きょとんとして、それからはははと声をあげて笑った。
「なるほど勉強不足だねぇ?いいよ、俺が教えてあげるから」
言うなり、俺はベッドにぼふんと押し倒された。
「うわ、ちょ、」
「はい、ズボンおろしてー」
器用な手つきでキッドさんは俺のベルトを外しジーパンを膝のあたりまでずるりと引き下ろした。下着の下で期待に頭をもたげ始めている俺のものをみてキッドさんはいやらしく笑った。
「陸は何もしなくていいから、動かないでね」
「は、ひッ」
下着まで下ろされた瞬間に、ぱっくりと俺のものがキッドさんの口におさめられた。ぬっとりとした熱い感触にぞくりとする。いつも自分が手でするのと同じ上下運動のはずなのに、手と口とではこんなに違うものなのかと、快楽でぼんやりする頭で考える。しかも咥えているのはキッドさんだ。考えただけでもイきそう。
じゅるじゅると音をたてて尖端を吸っては、竿の根元までべろりと舐められた。うわーとちょっとしたパニック状態で自分の下肢を見ようと恐る恐る首を持ち上げると、えろい表情をしたキッドさんが俺のものを舐めている。舐めながら、片方の手は後方へまわされている。その先を追うと、キッドさんは、多分、その、慣らしていた。うまいこと見えなかったけど、表情的にも、腕の動き的にも。そういえば、舐める音だけじゃなくて、くちゅくちゅと別の水音のようなものが聞こえるような気がする。
「あ、見ちゃだめ」
「へ?」
「……してるとこ、あんまり見られたくないんだけどねぇ」
「あ、ご、ごめんなさ、い、う、ぁ、」
恥じらうように俺の顔を見上げてくるので、俺は慌てて目をそらした。恥じらうような、照れたようなキッドさんの表情は、毒だ。えろい表情の次くらいに。
「結構、もう、イきたいんじゃない」
「ま、まぁ、っふ」
「挿れてみよっか」
俺の怒張したものから口を離したキッドさんは、膝立ちでついと移動すると、俺に跨った。
「う、あ」
「とりあえず、騎乗位でいいかな」
俺を見おろす視線が、至極えろい。普段部活では見られないキッドさんが俺の目の前で下半身を曝け出したまま、体位を尋ねてきた。あぁ、もう、だめだ。声にできないまま、首を縦に振ると、愛おしそうにキッドさんは俺の額に口づけを落としてくれた。
「いいかな」
「は、い、も、もうお、俺、」
「俺だって限界」
俺のものにキッドさんの手が添えられ、尖端があてがわれた。ぐ、と上から圧がかかる。
「んぅ」
「あ、キ、ッドさ、」
「ふ、」
ぬ、と熱いものに包まれた。じわりじわりと俺のものがキッドさんの身体の中に食い込んでいく。キッドさんは苦しそうに眉根に皺を寄せている半面、どこか嬉しそうに口元だけ笑っていた。
「あ、あ、はぁ、り、くぅ」
キッドさんの口から洩れる喘ぎに俺は思ったよりも興奮していた。
ずぷん、
キッドさんの身体の中に俺のが全部おさまった瞬間、はじけた。



  * * *



「本当、もう、俺、」
「ははは、だって初めてだったんだもんねぇ、仕方ないよ」
「それでもぉ……」
俺は頭の先まで布団をかぶってキッドさんの視線から逃れていた。申し訳ない気持ちと情けない気持ちでいっぱいの今はキッドさんの顔を直接見ることができない、見たら多分、恥ずかしさで死ねると思う。
結局俺はキッドさんの中におさめた途端にイってしまった。その上興奮したせいなのか、直後鼻血を出した。キッドさんは慌てたように、今日はやめようと言ってくれた。俺は自分だけイって、キッドさんに何もしてあげられなかったのだ。
「まぁ、ゆっくり、順を追ってやろうか。いきなりしようって言った俺も悪いしねぇ、ごめんよ陸」
「キッドさんが謝る事じゃないです……」
「いやいや。でも陸の初めての相手が俺だなんてなんだか嬉しいねぇ」
布団の上からぎゅっと抱きしめられて、俺はそっと顔を出した。
「あ、やっと顔見せてくれたね」
「うー……ごめんなさい」
キッドさんは何か言う代わりにちゅ、とまた優しく口づけてくれた。
言うこともやることも何もかも大人。それに比べて俺なんてまだまだガキのままだけど、いつか絶対追いこしてやる、と心に決めて、俺はそっと、舌をキッドさんの口の中に滑らせた。





意地悪なんて










陸キ。エロは苦手です、書くの。下手過ぎて心折れます。また逃げました、途中で(^O^)はてさて、陸キは我が家のメインではないのですが、何故か力が入ってしまいました。本能的にはエロが好きなようです。エロエロ。本当は他のCPでも書きたいのですが、なかなか。閃かない。なかなか。うん。(言い訳?)お目汚し失礼いたしました。(2010 11 05 jo)
あとがきの部分の陸キ表記が全部キ陸になっていた罠orz