「先輩!ひどいじゃないですか!」 荒々しく扉が開かれると同時にそんな言葉が飛び込んできた。そっちを振り向くとそこには肩をいからせて立つ陸がいた。朝練のために着替えていた俺たち(鉄馬以外)は何のことだと顔を見合わせる……ふりをする。 「これ!全然!アメフトじゃないっ!」 俺の目の前に突き出されたそれは1枚のDVD。 「ん?ああ、よかっただろ」 にんまりと笑ってやると陸は首をぶんぶんと横に振って否定した。 「良いテクだとか力強いプレイだとか……!騙されましたよ!」 # 昨日のこと。 これありがとなーとにやりと笑って本田が俺に差し出したのは一枚のDVDだっだ。 「おう、良かったろ?」 「やっぱいーな、無修正、」 2、3年にはほぼ布教し終えたそのDVD―――お察しの通り、AV―――を前にしてにまにま笑う俺たちにキッドが興味無さそうに、へぇそんなによかったんだと言う。 「まぁおまえには必要ねぇよなぁ」 「ごめんねー間に合ってて」 少し皮肉っぽく言ったキッド共々、部員(鉄馬以外)が声を上げて笑えるのは、キッドと鉄馬との間柄がほぼ公認だからだ。AVはともかく、部内の野郎同士の恋愛も認められてしまうのは、時代が時代なのか、それとも俺たちならではと言うべきか。寛大(悪く言えばルーズ)な仲間だと思う。 ちょうどその時、シャワールームから出てきた陸が不思議そうに 「何笑ってんですか?」 と言った。 陸の姿を見た俺たちは、数秒のアイコンタクトの後にまりと笑った。 「いやぁこのDVDすげぇんだぜ」「なぁ!テクがすっごいのなんのって」「あれは学びてぇよなぁ」「力強いプレイだったぜ」「激しさ半端ねぇよ」と口々に言った。何のDVDなのか自分なりに納得したのか陸は 「じゃぁ俺にも貸してくださいよ」 と屈託なく笑った。その場の誰もがキタ、と思った。が顔には出さない。 「おう、楽しめよ」 「ありがとうございます」 この純真無垢なアメフト馬鹿がいったいこのDVDを見てどんな反応を見せるだろうと、DVDを手に取る陸を鉄馬以外の部員が好奇の目で見つめる中、俺は少しだけ、子の成長を見守る親の気分で陸を見守った。 # 「……良かっただろ?」 「良くないですよ!アメフトの試合の映像だと思ってました!」 「昨日誰一人として"アメフトの"、って言わなかったけどな」 声を荒げる陸に対して、俺たちは落ち着き払って陸の反応を見守る。うぅぅと小さく唸って陸は俺だけでなく周囲の部員のことも睨んでいる。一方的な睨み合いの沈黙を破ったのはキッドだった。 「それでー、見たの?」 間延びした問い掛けに、陸は即座に 「見てません!」 と噛み付く。その反応を見てからかい甲斐があると思い、口々に尋ねた。 「見ただろ」「抜かなかったのか?」「ウブだなーァ陸は」「折角大人への階段の第一歩だったってのに」 言われたい放題の陸は、寧ろ、感情を抑えて静かに言った。 「もしかして皆さん、知ってて騙したんですか……?」 恥ずかしさと悔しさで潤んだ瞳で陸はぐるりと見回す。いつもの強気はどこへやら。迫力も凄味も0。多勢に無勢とはこのことだ。可愛い後輩が少し可哀相に思えて俺は口を開いた。 「まァ、俺たちもからかい半分とは言え、残り半分は親切からだったわけだしよォ、悪かったって、そう怒るなよォ」 手を伸ばして陸の頭をわしわしと撫でてやると、やわらかい髪の下で、またそうやって子供扱いする……と呟かれた。 「悪かったなァ陸」 「おまえがあまりに可愛いからさぁ」 うんうんと頷き合う2、3年にどう反応したらいいのかと困ったように陸ははぁ、と言った。 「つか元凶は牛島さんだろー?」 本田がにやりとして言うから、お前だってノリノリでDVD賞賛してたじゃねェかと蹴ってやった。 その日の帰りぎわ、今朝のこともすっかり忘れているだろう陸をひきとめて、結局本当のところは、どうなんだ、見たのかと問い詰めたら、耳まで真っ赤に染めて俺を下から睨み上げられた。 「再生して、わかった瞬間、すぐ消しましたよ!」 そう抗議する様子は予想以上に可愛くて 「あああァもう陸よォォ、」 「ちょ!牛島先輩!暑苦しい!」 俺は陸を強く抱き締めてわしゃわしゃ頭をかき撫でた。違う、これはキッドたちみたいな恋なんかじゃない、兄弟愛だ、母性だ(いやそれもどうなんだ俺)と自分に言い聞かせながら。 AVをアダルトではなくアメフトととるのはあれですか定番ですかそうですよね(^q^) りっくん可愛いよー(*´д`*)ハァン 牛陸ってあまりメジャーじゃないようで少し淋しい(`・ω・`) (2009 12 jo) |