考えないようにしようと思えば思う程、余計考えちまう。頭の中は、可愛い後輩のことばかり。……こんなこと、部の誰にも知られたくない。

練習が終わった後。俺は帰るのを惜しむように部室でだらだらとあったかい缶コーンスープをすすっていた。陸は律義に、俺が帰るまで待つつもりらしい。帰る準備を終えた後、キッドから鍵を預かってベンチにちんまりと座っていた。運動した後の熱がひかないのか、いつものジャケットも羽織らずにいる。
「寒くねぇのか」
「まだ暑くて」
「そう、だよな」
「でも、本当に寒くなりましたね。身体あったまるまで辛い時期です」
「陸は筋肉少なそうだからなぁ」
「比較対象が牛島さんじゃぁ話になりませんよ」
「そりゃぁそうか」
決してまだ帰らないのかとは尋ねてこないあたりが、気を遣ってるんだなぁと思う。大学受験をせず推薦で決まったやつらは、相変わらず現役時代と同じように部活に顔を出している。後輩達へ指導をしに、という名目だが、気持ちの上では半分くらい、名残惜しくて来ている。そういうのを感じとってしまうのは同じ気持ちである俺もそうだが、ちょっと観察力のある奴ら――キッドとか、陸とかは、察したらしい。多分陸は、俺もその1人だと思っているに違いない。
「陸、アメフト楽しいか」
「え、なんですか突然。もちろん、楽しいですよ」
高校を卒業することなんてもっとずっと先の話だと思っていた。また来年も皆と一緒にこのチームでフィールドに立てるような気がしていた。けれど、季節は夏から秋へと移る。どんなに夏が暑くても、ルーティンワークをきちんとこなす真面目な四季は寒い冬になるのを忘れない。季節の移ろいと共に、ここにいられる時間が過ぎ去っていく。皆とアメフトできるのはあと何日なのか。陸と一緒にいられるのはあと何日なのか。1人くだらないカウントダウンをしてみては、溜息が出た。
「陸よォ」
「なんですか?」
「……、」
思ったように言葉は出てこなかった。今日こそ好きだと伝えようと思ったのに。我ながらデカい図体しといて本当ビビりだと呆れる。部活後のこの2人きりシチュエーションを何回つくったら俺は告白できるんだ?陸だってそろそろ、迷惑だと思うかもしれねェのによ。
「呼んでみた、だけだ」
そう返すので精いっぱいで、無理に笑って見せた。
「またまたー。最近そればっかじゃないですか」
「はは」
「言いたいこと、あるんじゃないですか?言いにくいなら、言いたくないなら、いいですけど。俺としては気になりますけどね」
「悪ィ」
「いえ、気にしないでください!年下の俺で良ければ、なんでも悩み事とか聞きますから」
本当は悩み事とかじゃなくて告白、しかも“愛の告白”なんだけどなぁと思いながら俺は、ありがとなというので精一杯だった。
「あ、……そろそろ帰るけど陸も帰るか」
「もちろんです」
連れだって外に出ると、寒さが身体に沁みた。
「うわ、寒ッ……」
「中はだいぶマシだったんだなぁ」
ふあ、と白い息があがった。
「ついこの前まで暑かったのに。時間なんてあっという間に過ぎていきますよね。楽しい時程、特に」
「おう、そうだなぁ、」
どこか淋しげに笑う陸は、聡明なんだろうが、見た目に反するが故にどこか気障っぽく映ってしまい思わず笑ってしまった。
「な、なんですか牛島さん、」
「い、いやぁなんでもねぇよ」
「何も無かったら普通笑いませんよね」
まぁ別にいいですけど、と陸は笑った。ああやっぱり言わなきゃならない。言いたい気持ちもあるけど、こんな不純な気持ち隠し続けてるとなんだか騙してるみたいで怖くなる。やっぱり俺、気ィ小っせー。
「なァ、陸よォ」
「なんですか?」
「今から言うこと、ひかずに聞いてくれるか?」
「どうしました?突然」
「だから、今から言うこと聞いても、これからもいい先輩後輩でいてくれるか?」
陸は首をかしげてちょっと考える素振りを見せた。それから、ゆっくりと俺の方を見上げる。
「その条件下で、俺も言いたいことがあります」
「え、」
「先に言ってもいいですか」
「おおお、おゥ」
「牛島さん、好きです」
「え」
さらりと陸は言った。な、なんだって?
「先輩としてでもなく、尊敬的な意味でもなく、本当に好きです」
「そ、れは」
「ひきますよね、アメフト部の後輩に好きなんて言われりゃ。ガチで、ごめんなさい。でもどうしても、伝えたくて。先輩が卒業する前に」
「り、く、」
「言えたらスッキリしました。さ、今のは忘れて、先輩も言ってください」
断られる前提で言ったのか、陸は潔く、無かったことにしようとする。笑ってるくせに、その目は心なしか潤んでるように見えた。それより俺は、陸が俺のことを好きだという事実に、そして告白してくれたという事実に、驚いていた。拍子抜けした。今まで俺が悩んでたのは何だったんだ?
「陸、話を戻しちまうようで悪いが、今のは本当か」
「え、あ、はは、嫌ですよ、俺の事嫌いになっちゃ。まぁ避けられる覚悟はしてますけど」
いつもフィールドでは気丈に戦う1年エースが今日は幼く見える。
「俺も陸が好きだ」
えっと陸が息をのんだ。今度は陸が驚く番だ。
「ずっと言おうと思ってたンだが先を越されちまったなァ、俺だせェ」
「それって、慰めとかじゃない、ですよね」
「陸こそ冗談とかだったら俺のデュアルホーンでぶっ潰すぞ」
「本気です!」
「おおお、おぅ、そうか、」
「じゃ、じゃァ、つ、」
「待て待て待て、俺に言わせろ」
後輩に言わせてばっかじゃ情けねェだろ?と言うと陸は照れたように笑った。
「陸、俺と付き合ってくれるか」
「はい、もちろんです」
はっきりとした返事に、俺は嬉しさと恥ずかしさで顔が熱くなった。と、隣で小さい身体が揺れた。
「牛島さん、真っ赤ですよ」
「うるせー寒いせいだ!」
あーもう!今すぐにでも逃げ出してェよォ!











「ぐっばい純情!」続編、のつもりでお送りしました。遅くなった上に、期待外れの方向でしたら御免なさい……アワワワ。へたれーな牛島さんと一緒に今から全力で逃走してきます。タヒ。(2010 11 20 jo)