強い男が好きだ。
別に性対象という訳ではない。
そう、自分が見るからにひ弱だから。
人は、ない物ねだりするものだから。
……決して、性対象ではない。

はずだった。

「……肉ばっか食って、楽しいか」
「美味い」
こちら、今時珍しい肉食系男子、峨王力哉。……本当に本物の肉食野郎。図体もでかいし、多分初対面の奴とかビビって泣いてしまうんじゃない?
そして俺はこいつとは対照的に超草食系男子、円子令司。峨王と並ぶと、自分の貧相な身体に泣きそうになる。
「円子」
「ん?」
「なくなった」
見ると、トレイにあった大量の肉達はなく。峨王は少し物足りなそうに俺を見つめた。
「……買えと」
「買って来い」
「ったく、自分で買って来いっちゅー話だろ」
「好きだから仕方ない」
「そんなに肉が好きか」
「違う」
バチッと峨王と目が合う。俺は財布を片手に席を立つ格好で固まった。
……何?
「え、」
「お前が俺を好きだから仕方ない」
「は?」
は??
「はあァ!?」
「うるさいぞ、円子」
「ななな何言って!!俺が好きなのはマリアだけだ!断じて!!」
「ごちゃごちゃ言うな、男だろ?」
「お、お前が変な事言うからだろ!?」
「事実だろ」
「嘘に決まってる!」
「今此処でキスだって出来るだろ?」
「ちょ、待っ……!」
峨王のでかい顔が近付いて来て、
か弱い俺を引き寄せて、
唇が、重なった。
「っん……?!」
じゅっと生々しい音を立てて唇を吸われてから離れた。俺はぽかんと口を開いて立ち尽くす。
こんな公衆の面前で。 キスをした。こいつは。
「ななな何してんだ!」
「キス」
「そんなん分かってる!どうしてしたんだよっ!」
「お前が俺を好きだからだ。分かり切った事を聞くな」
「っ馬鹿――!」
俺は鞄を手に、急いで店から出た。勿論、奴は追って来ない。
息を切らして走り、触れられた唇にそっと手を添える。
熱を持ったそこをきゅッと噛み締め、近くにあった電柱にもたれる。
「……何やってんだっちゅー話……」



非力な俺。力でねじ伏せるタイプのこいつには敵わない。
「……峨王」
「何だ?」
俺の視界には、奴の巨体と天井しか映っていない。つまりこういう事。
「何で押し倒してんの?練習終わったぞ?」
「セックスするぞ」
「は?」
は??
「はあァ!?」
「うるさいぞ、円子」
「ななな何言って、何やって!」
「うるさい、ごちゃごちゃ言うな」
「んっ」
あーあ。またこういう展開か。俺は峨王の強引なキスを受け、完全に腰を抜かした。情けないっちゅー話だよ。
「あっ……あ――っ、」
ぬめりのある何かで俺の一番綺麗な所を暴かれた。
どうして、
「どうしてっ……」
「決まってるだろ」
峨王の目が爛と輝く。……嫌な物を見た。
「お前が、俺を、好きだからだ」
「っあ!」
あいつのごつい指が、乱暴に内側を擦り上げる。キツい。正直。
「なーん、で、俺がお前を」
「そうだからだ」
「……へー」
はは、ウケる。俺がこーんなごつい巨体持った男を好きになる訳ないだろ。
「逆、じゃないの?」
「は?」
「そりゃ、普通っ……」
「挿れるぞ」
ズン、と熱い塊が押し入ってきた。痛みに顔をゆがめる。
「いっ、た、あ、あっ」
峨王が入ってくる。ためらいもなく、俺を犯す。
「やっ、あ、んっ……!」
「「円子、キツい」
「あっ、知、るかっ!んんっ……!」
擦りつけられ、俺はたまらず射精した。痛いのに、悦い。
苦しいのに、欲しい。
……変態かっちゅー話だよ。
「あーっ、峨王ー、っ!」
涙目で見上げて、厚い胸板に顔を埋める。ぎゅッと抱き締め、背中に爪を立てた。
「……円子」
「あっ、あ、」
細いばかりの脚を峨王の腰に絡め、掠れた声を出す。
俺、峨王が好きだったんかな。
錯覚してしまう。
「んっ……!」
峨王の物が膨らんで、たっぷり俺の中に精を放った。
熱くて、ドロっとしてて、変な感じ。
「が、お……」
「……ほら、見ろ」
峨王の勝気な瞳には、情けない顔をした俺が映っていた。
「俺のこと、好きだろ?」
「……あのさ、お前が俺のこと好きなんじゃない?普通に考えて」
「俺が?お前を?」
峨王がきょとんとする。ちょっとは子供らしくなったか?
「……ナルシストめ」
「お前が言うな、お前が!俺がお前を好きとか言いやがってさ!」
「事実だろ」
「ギャー!馬鹿っ」
「うるさい」
ガシッと頭をつかまれ、視線がぶつかる。露骨に顔が赤くなって、恥ずかしくて俺はすぐに俯いた。
「恥じらうな」
「なっ……」
「俺だけを見てろ、」
肉感的な唇が触れて、頭がクラクラした。
「永遠にな」
「……プロポーズかっちゅー話だよ」
でも、満更でもない俺。
これからもずっと、こいつの為に俺は肉を買うのかな。
なーんて、ね。
















(2010 09 20 時雨)