ひゅうっと冷たい風が、さっきまで汗が浮いていた頬を撫でた。
さむー!と正直に声を上げた陸の傍らにキャプテンがさっと寄り添った。風上側に立ったから、たぶん風よけになるつもりなんだろうなぁ。
ちゃんと風よけになるのか、ましてや寒さがましになるのか否かはまぁ別として、そういう、わかりにくくてぎこちない優しさが彼ららしい。見ていて心がほっこりするので、自然と微笑んでしまう。
鉄馬はそんな俺に不思議そうに首を傾げた。

「ん?あぁ、なんでもないよ」
「……?」
「さ、帰ろ」

尚じっと見つめてくる鉄馬に、

「寒いねぇ」

と言った。その息が白くなってほわわと空気中を漂い、すぐに消えた。

「……まぁ、陸もキャプテンも俺たちに毒されたってとこかなぁ」
「?」
「鉄馬はわかんなくていいよ」

駅に迎う面々と道が分かれる交差点で、陸が振り返った。

「じゃぁキッドさん、鉄馬さん、また明日」

陸だけじゃなく、続けて振り返る皆の鼻の先っちょと耳も赤くなっている。 多分自分もそうなんだろうけど、他人のその様を見るとどうしてか子供っぽくて愛しく思える。赤い色のせい?なんて思いながら

「ん、またねぇ」

とひらひらと手を振ってみせた。
俺と鉄馬は暫くそこに立ち止まったまま駅の方へとむかう背中を見送る。……キャプテンは未だ例のポジションをキープしている、なんて健気なんだか、ねぇ。

「さ、俺たちも行こうか」

ガッシュンと機械音が聞こえてきそうな深い頷きを見て、ああ鉄馬の鼻も赤くなっててなんだか可愛いなぁと思う。

そうして肩を並べて、少しひっそりとした住宅街を、二人の家に向かって歩いた。漆黒の闇に飲み込まれるのを避けるように、電灯の下を歩く。
住宅街にしては暗く、かといって星を見るには明るすぎた。元は山だっただろう住宅街にはふさわしい人工の薄明かりに、なんとなく心細くさせられる。

不意に手に圧を感じた。
鉄馬が俺の手を握っていた。はっとして鉄馬を見ると、伺うような心配そうな眼差しとぶつかった。言葉に出さなくても、まるで心が繋がってるかのよう―――こういうのを以心伝心っていうのかな。
心配かけたくないしなぁと思って俺はくすりと笑う。

「積極的だねぇ」

もちろん誤魔化したって鉄馬にはあまり通用しないから意味ないんだけど、とりあえずくすくす笑っていたら本当に恥ずかしくなったのか鉄馬は俺の手を離そうとする、が俺は離さない。

「だーめ。逃がさない」

手袋ごしではあるけれど、じんわり伝わる鉄馬の手のぬくみに、嗚呼俺はこれがなかったら家を出ようなんて思わなかったかもしれないなぁとしみじみしてしまうあたり、精神的に年なのかもしれない。

「ふふ、」

ぶーらぶーら手を揺らすと鉄馬は少し困ったように照れた。

「早くあったかくなるといいねぇ」
「……ん」
「そしたら、どっか二人で遊びにいこうか。どこがいい?」

鉄馬がマフラーに口までうずめて暫く考えたあと、

「しえんと一緒なら、どこでもいい」

と、ぽそりと言った。
あーもう無自覚って一番タチ悪いなぁ、なんでもう、こうも愛しいんだろう。

「そうだ」
「?」
「今日は鍋にしようか」

一緒にあったまろう、
言うと鉄馬ははにかんだように頷いた。





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初書き鉄キss。
ほ、方向性が……!わからな……い……!(爆) あのふたりはとりとめのないうだうだな日常がきっと幸せなんだと思うよ(`・ω・´) キッドはみんな大好きだけどとりわけ鉄馬が大好き!って話でした(?) 御粗末さまです精進します(`・ω・´)

(2009 01 23 jo)