何を恐れているのか、わからない。わからないが、たぶん、いやきっと、紫苑は俺にしか救えない。



紫苑をそっと盗み見ると、さっきまで本を読んでいた目は外に向けられていた。どこか遠くを、何かを見るわけでもなくぼんやりと虚ろな目で。
時々、紫苑は、遠くに行ってしまう。ここにいるのに、心だけどこか遠くの、俺でさえ届かない場所へ。家を求めているのか、それとも未来を探しているのか、はっきりとはわからないけれど、そういう時、紫苑は、まるで壊れ物みたいな感じがする。

外は灰色、降り注ぐ雨。退屈な昼下がり。決まって紫苑はどこかへトリップする。

「紫苑、コーヒー、」
「あぁ、ありがと」

俺の声で現実に戻ってきた紫苑は、慌ててにっこりと微笑む。

「ぼーっとしちゃった」
「……」

小窓の傍にテーブルがあるのは紫苑がそうしたいと言ったからだった。そこから、紫苑が心を彷徨わせるための、入り口。
真向かいに座ると、どうしたんだい?とまた微笑んでコーヒーをすすった。

「大丈夫、か?」
「何が?」
「……」
探るような視線が、どこか縋るような目にも見えて、俺は居たたまれずに目を伏せる。
再び、雨音に吸い込まれるように、紫苑はどこかへトリップしていく。
近付いてきて、掴んだかと思えば、いつの間にか指の間をすり抜ける。時間の流れに身を任せて、次は何処へ行くのだろう。

いつの間にか俺は取り残される。
せめて、俺の傍が一番、休みやすい場所であれば、





The worst loneliness is not to be comfortable with yourself.
--- Mark Twain





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タイトルセンスの無さに絶句(^O^)しえんちゃんはいつも心に孤独を抱えた子だといいと思います。てつま頑張れ!
(2010 02 28 jo)