こんなにも、想っているのに。
俺の想いは、紫苑の傷を埋めることはできないのか。



「そろそろ、寝ようか」
落ち着いた声で、紫苑は言う。部屋の電気を消して、寝室へ向かう紫苑の後を追う。
「明日、朝早かったっけー」
欠伸交じりに言う紫苑はちらと俺を振り返ってそう訪ねた。
「明日の朝練は自由だと、紫苑がさっき言っただろう」
「あ、そうだった。どうする?」
ダブルベッドにもぐりこんで、紫苑は俺に背中を向けた。俺は後ろからその身体を抱き締める。
「俺は、どっちでもいい」
「嘘ばっかり。本当は朝練したいくせに」
「……」
「俺にあわせなくてもいいんだよ」
「ん」
首元に顔をうずめると、紫苑はくすぐったそうに身を捩った。生乾きの髪からシャンプーの匂いがする。

「髪、乾かさなかったのか」
「うん、面倒臭くてねぇ」
「……傷む」
「わかってるけど、今日はもう寝たいんだよねぇ」
疲れてるから、と紫苑は溜息をついた。紫苑の身体が呼吸に合わせて上下する。
あわせなくていいって言ったけど、と再び紫苑は口を開く。
「やっぱり明日は少し遅めにいかないかい?」
「あぁ」
「ありがと、……おやすみ」
それっきり、紫苑は俺に話しかけてこない。が、紫苑は起きているのは手に取るように分かった。また何か考え事でもしているのか。話してくれたらいいのにと何度も思ったが、流石に直接言えずに俺はただ待っていた。待ち続けている。

そうして俺たちは暫く、寝たふりをして過ごす。










鉄キ。妙に多弁な鉄馬氏。喋り方わからない。サーセン。
(2010 03 04 jo)
誤字訂正
(2010 07 13 jo)