(あ、) 鉄馬のこめかみから頬を、つぅと汗が伝う。頬から顎にかけて、日光を反射して白く光りながら、重力に従うそれを俺は凝視していた。そしてとうとう、顎から、ぽた、と汗が零れおちて、乾いたグラウンドに仄い染みを作る。ぞわり、と足元から来る、この感覚。 ……――― ああ、鉄馬が欲しいな。 お腹が空いた、というのとまるで同じ感覚で俺はふとそんなことを思った。うっかり口に出そうものなら皆ぎょっとするだろうなぁ。自然とくつくつと喉奥で笑っていると、陸が恐る恐るどうしましたかと尋ねてくる。 「いやぁ、何でも無いよ」 「本当ですか?」 訝しげに首を傾げる陸に心の中でそっと謝る。ごめんね、君が考えているほど俺はまともな人間じゃないみたいなんだ。 「あーッ、思い出し笑いってエッチなんだよーッ!」 向こうから楽しそうなヒナちゃんの声が飛んできて、陸は慌てて 「キッドさんはそんな人じゃないです!」 と返答する。 「そうだよねぇ、俺はそんな人じゃないよねぇ?」 口でそう言いながら、嗚呼なんて、俺は猫かぶりなんだろうとまた笑ってしまった。俺が考えてることなんて、誰も予測できないだろうなぁ。俺自身だって自分の思考についていけなくてびっくりしてるのに。 陸がヒナちゃんに絡まれている間に、俺はそっと鉄馬にちょいちょい、と手招きをした。 もちろん従順な鉄馬は自分がどれだけ疲れていようとすぐに駆け寄って来てくれる。俺が口を開いた瞬間に、鉄馬の汗のにおいが俺の鼻先を掠めた。 嗚呼もう、本当だめかもしれない! 声になり損ねたものを吐息に変えてそっと吐きだすと、それに気付いたように鉄馬がすっと俺の口の前に手を持ってきた。 「しえん、だめ」 「まだ何も言ってないけど?」 「いつも、」 いつもねだる前は、そんな顔してる。 そう言い残してから、鉄馬は俺の頭をぽすぽす叩いてくるりと踵を返してしまった。 ねだる前、なんて、俺どれだけ卑猥な顔してるんだろうねぇ。鉄馬にはばれてしまうみたいで面白くないけれど。 甘い飢餓感 『後ろめたい鉄キ』をコンセプトに、 と思えばいつの間にやらちょっとイっちゃってるキッドさんに……。 (2010 08 02 jo) |