「あーもういや勉強したくねーらんど」
床にごろりと寝転がると、
「りんくんしっかりやろうねぇ」
とたしなめる様な知念の声が上から降ってきた。
「フラー、わんには勉強なんか向いてないさぁ」
むっとして睨みあげると、新しい麦茶ポットを持ってきた知念が面白くない表情でわんを見おろしてきた。いつもいつも見おろしやがって、くにひゃー!
「とかあびながら、いつも順位上の方やしが」
「ハッ、やーには負けるんどー」
「気分転換に散歩でも行くかや、」
「んー……なぁまでーじあちさんよぉ?……ま、勉強よりゆたさんよ、賛成」
「あんしぇ、いちゅんど」





 キ マ グ レ ?






何も持たずに外に出ると、知念は奥から自転車を出してきて、
「乗れ」
と言った。散歩なのにわざわざ鞄を持つ知念はまめだと思う。小さめのボストンバッグをぼすんとかごに突っ込むと長い足でひょいと自転車に跨った。
「歩きじゃないかや」
「歩きにしたらりんくん途中でだだこねると思って」
「ご名答」
「やてぃんりんくん、途中でかわれよ」
「べー」
「べーじゃねーらんよぉ」
後ろにまたがると、知念がすぐ自転車をこぎ始めた。家をぐるりとまわって、裏の何も舗装されていない細い坂道をノーブレーキで下っていった。耳元でびゅーびゅーと風が煩い。それはまだいい、最悪なことに、振動が全部ケツにくる。
「ちちちちねねんんあぎゃああケツっケツっ、ケケツあがあああ!」
「凛くんみんちゃさいよぉ」
「ひぃー!あ、でも風がきもちー」
「だーるば」
「はあー!わんなま風だばぁ」
「フラー」
ぎゅっと知念の腰に手を回すと、骨と皮だけみたいな身体がきゅっと強張った。
「りんくんーこしだめー」
「えー?なんてー?聞こえねーらん」
「よわいんさぁーくすぐったいさぁー」
風で聞こえないふりをして知念の胴回りに腕をからませると知念が息を呑んで少し仰け反った。
「のわっ」
ぐらりと自転車が一瞬コントロールの失い大きく揺れる。背筋に一瞬冷たいものが走った。
「こ、こえー!」
「フラー、りんくんのせいやさぁ」
「知らねーらんどー」
可笑しくて知念の背中に鼻を押し付けたら、汗ばんだシャツから知念の匂いがした。
「知念汗くさいー」
「やーもにきまっちゅーさぁ!りんくんーあとでおぼえてろー」
「忘れるー」
ゲラゲラと笑いながらわったーは自転車で進んでいった。坂道を下って、裏道からどこか舗装された道に出て、一面が畑のところへきた。わんはずっと知念にちょっかいかけて笑ってたからどれくらい遠くまで来たかわからないけど、暫くたって知念は突然自転車を止めた。
「きゅうけーい」
「おつかれー」
日陰なんてありそうもなくてわんはげんなりする。
「はー。あーちさーん」
「ほれ」
知念は持ってきたカバンの中から缶ジュースを取りだした。
「おー気がきく」
「脱水で倒れられても困るんばぁよ」
少しぬるくなっていたけど、乾いた身体を潤すのには十分だった。わんがもったいぶってちびちび飲む横で、知念はぐびりぐびりと喉を鳴らした。一気に飲み干したらしい。ぐいと手の甲で口をぬぐったと思うと缶をぽいと自転車カゴに放り入れた。
「早いさ」
「喉乾いてた」
「やーやずっとこいでたもんなぁ」
「帰りはかわれよ」
「道しらね」
「フラー」
聞こえないふりをして、知念の影にしゃがみこむと、知念は羨ましそうな、それでいて嫌そうな顔でわんを見おろした。
「他人の影にはいるなんてずるいさぁ」
「だってあちさん」
「畑行ちゅん」
「畑ぇ?」
「涼しいんど」
ふーんと適当に返事をするわんをよそに、知念はついて来いと言わんばかりにずんずんと畑の方へ進んでいった。別について行かなくてもいいんだ、いいんだけど、とりあえずついていくことにした。取り残されるのが淋しいわけじゃないんだからな!
「ちねーん、カバンとチャリいいの」
「誰もとってったりしねーらんよぉ」
わったーより丈の高いさとうきびをかきわけて、畑の中ほどまで進んだ。
「このへんでいいかや」
不意にぽつりと言った知念は乱暴にごろりと横たわった。
「寝んの?」
風が吹くたびにさわさわとさとうきびの葉が揺れる。それに合わせて、視界の中でちらちらと日の光が躍った。
「……とうきびが日陰になって涼しいさぁ」
「よく来るの?」
「まぁ、たまに。……ちょっと涼んだらすぐけーるさぁ」
「うん」
わんはその場に座り込んでさっきのジュースを飲んだ。食道から胃にかけて、じわりと潤っていく感覚にふうと溜息をついた。知念を見ると本当に目をつぶっている。
「あれ、マジ寝?」
「起きちゅう」
「あ、そう」
「りんくん、けーりたいんばぁ?」
「いーやどっちでもゆたさん」
むくりと起き上った知念は、そのままよっこいしょと立ち上がった。
「けーるか」
「涼みにきたんじゃないの」
「なんか、なまでーじ眠いから、しんけん寝てしまいそうさぁ」
「それは困る、しんけん困るさぁ」
立ち上がった知念に置いて行かれないように、立ち上がると、知念がわんの顔をじっと見た。
「な、なに?何かついてるかや」
あまりに凝視するので慌てて目をそらした。さっきまでの知念と違う、少し真剣な目が怖かった。
「あー……」
「な、なんね?!」
「ちょっと、」
「あい?」
「ちょっと、かがもうかな」
言いながら、知念は屈んできて、知念の顔がどんどん近付いてきて、わんは怖くてきゅっと目を瞑った。……ちゅ、と唇に何かが触れた。何かじゃない、ちゃんとわかってる、知念の唇が、わんの唇にふれた。キスをされた。
「なっなななにっをっ」
「りんくん、ちら赤さんよ」
心臓がどっどっと激しく暴れて、顔中が熱い。一体知念が何のために、どういう意図でキスしたのかさっぱりわからなくてこっちは混乱してるって言うのに、知念はどこ吹く風で何もなかったかのような態度だ。
「な、ま、」
「置いてくよ」
「あっ待って」
慌てて知念の後を追いかけて、そのあとはまた自転車の後ろに座って知念にしがみついた。知念にしがみつく手が震える。今度はあの坂道を通らずに、別ルートで少し遠周りで帰った。行きはあんなにあっという間だったのに、帰りはとても長い距離に感じた。 知念の家に着いても心臓はうるさいままで、わんはまともに知念の顔を見られなかった。
「りんくん着いたよ」
「にふぇーでーびる」
「どうする、勉強する?けーる?」
ぬっと覗き込んでくる知念にわんは思わずのけぞった。……また、キスされるかと思った。
「くにひゃー……ぬーでぃやーは普通なんばぁ?」
「……」
「な、なんで、キ、キ、キ、」
「キス?」
「したのっ?」
恥ずかしくて顔を上げられないわんの頭を、知念の手がぐわしぐわしと撫でた。風でくしゃくしゃになった髪の毛が更に乱れていく。
「でーじうじらぁさんやくとぅ我慢できねーらんど」
「わんはいきが!」
何がうじらぁさんだ!そういう言葉はいなぐに使えとたしなめるつもりで言ったら、
「でも、かなさん。嫌ならはっきり拒絶して」
かなさんってなんだかなさんって!右ストレートを交わされて、挙句鳩尾に一発決められたような気分だった。敵わない、知念には多分一生かかっても敵わない。
「うー……わんがやーを拒めるとでも?」
「わっさん、いじめすぎた」
「謝るならすんなぁ」
「幸せにするから」
「普通順番逆じゃねーのっ?」
恥ずかしいことをさらっと言ってのけるので、悔しくて反発したら、
「こういうのも、アリやっさ」
今度も知念はさらっと微笑って言いのけた。









とうきび畑で隠れてちゅーするのとか超萌えたんです、先日読んだ本でそんなシーンがあったので参考にさせていただきやした(爆)あー凛くんうじらぁさん!
※)なま:今 あびる:言う あんしぇ:じゃぁ いちゅん:行く フラー:ばか いきが:男 いなぐ:女 うじらぁさん:かわいい かなさん:愛してる くにひゃー:こいつ
あとは割と嘘っぱちうちなーぐちです、ノリと勢いで書いています、申し訳御座いませんorz(2010 08 24 jo)