「平古場ってェ、女みてぃやさぁ」
そのからかい文句に、もちろん平古場は怒った。
男だって頭ではわかってる。
でも異性に対してどきどきするのと同じように、わんは平古場に対して、どきどきしていた。

   不実な良心

毎朝自転車で平古場を迎えに行くのがわんの日課。
通学路の途中にたまたま平古場の家があるから寄ってるだけで、本当は朝に平古場には会いたくない。
低血圧の平古場は、仏頂面のままのそのそと歩み寄ってきて後ろに乗る。それを確認してからわんは足にぐっと体重をかけて、自転車を走らせる。自転車は海沿いの舗装された道を学校に向けて加速する。海がきらきらと朝日を反射して眩しい。後ろにのってるはずの人間は一言も発しないから、本当に平古場が乗ってるかどうかわからない。重たい荷物をのせて運んでいる様な気分になる。
(今朝平古場をオカズにして抜いたんばぁよ)
到底言えないけれど、心の中で毎朝懺悔する。繰り返し、繰り返し思ってみる。ふとした瞬間に、テレパシーみたいにしてわんの考えてることが平古場に伝わればいいのに。伝わったら平古場は、顔を真っ青にして自転車を飛び降りるさぁ。最悪の場合口もきいてくれなくなって、ダブルスも解消。友達だったことがウソみたいに他人になれるかもしれない。
そうなればいいのに。
(友人をオカズにして、朝勃ちを解消しましたー、はは)
そりゃぁ自暴自棄にもなるさぁ。
触れられる距離。
それでいて、絶対に触れてはいけない領域にいる。
ひどくされない限り、ずっと平古場の事を好きでいる、そんな気がしている。
「知念、にーぶやー」
「夜更かしするから悪いんばーよフラー」
首の付け根あたりに、平古場のおでこがあたる。
そうやって無防備にわんに触らないでほしい。まぁ警戒するわけもないか、友人が自分のことを好きだとは予想だにしないだろうから。
「じゃぁまた部活で」
「ん」
学校に着くころには平古場の頭の中もようやく覚醒してくるのか、いつもの決まり文句を言う。わんはそれに手を挙げて応えて、自転車をとめにいく、これがいつも通り。毎朝。そしてわんはあと平古場と何度同じ事を繰り返せるのだろうと考えて、止める。どうせいつかは卒業するんだ、この学校も、この自転車送迎の関係も。

窓際の席だと授業に集中できない。グラウンドを一望できる席は、わんには特等席だ。わんがクラスで数学を受けていると、眼下では平古場のクラスが体育をやっている。裕次郎が上手くパフォーマンスしてみせると、わんだってできるといわんばかりに平古場も張り合う。見ているだけでも、ガキみたいなやり取りが聞こえてきそうだ。
平古場は視覚的にも五月蝿い。いくら暑くても長袖ジャージを決して脱がないし、金髪で長髪なもんだから、見つけてくれといっているようなもので、一発でどこにいるかわかる。
そして偶に。極稀に。
平古場がふとこっちを向くのだ。
空を見ているのかもしれない。
でも思いきって小さく手を振ってみると、平古場は絶対に、手を振り返してくれる。

席がえなんてこなくていい。その代わり毎朝懺悔してやる。
アイツを見れるだけで、もう、胸がいっぱい。





恋して恋を失ったのは、まったく愛さないよりもましだ。
   ――テニソン「イン・メモリアム」





知→←凛でもどかしい両想いとリクエストいただいたものです〜。確か!携帯サイトのアンケートでの投稿だったかと!メモしか残しておらずおぼろげな感じですみませんorz リクエストしてくださった方のみお持ち帰りおkと言いたいところですが……も、もどかしさが伝わらなくてすみませ……!力不足で申し訳ないぐらいですorz(2011 03 22 jo)

\もどかしさが足りないぜ!/













































































知念寛は変な奴だ。
見た目も不気味だし、何考えてるかわかんねー。
不気味な笑い方しながら「女みてぃ」ってからかってくる。
いちいちからかうな、結構気にしてるんだし。
でも本当に、女だったら、良かったのかな……。

朝、家を出てすぐのところに、俺の送迎自転車が待っている。運転手の知念寛は涼しい顔で遠くを眺めてる。いつ見ても何考えてるか読めない。
挨拶もしないままによっこいしょと後ろに跨ると、待ち構えていたかのようにすうっと自転車は走りだした。
滑り出し好調。今日の天気も良し。風、良し。気温、良し。
前方は知念の背中で全く見えない。予期せずに突然曲がったりブレーキかけたりしようものなら振り落とされる自信がある。そんなスリル感でどきどきしながら、一方で悠長にも目の前の真っ白なキャンパスに頭の中で絵を描く。知念は今どんな気持ちで、どんな顔してるんだろうって、妄想で描いてみる。
毎日毎日、本当感心する。利用してるのはわんなんだけど、それでもただ部活で仲良くなった友達を、毎朝迎えに来ては学校まで乗せて行ってくれる。帰りも同じ。便利なアシです本当に。わんは彼女か、っていうぐらいの至れり尽くせりモーニング。
なれるものならなってみたいよな、彼女ってやつに。
「知念、にーぶやー」
ぐっとおでこを押し付けると背中越しに
「夜更かしするから悪いんばーよフラー」
とくぐもった声が聞こえてきた。じんわりおでこに知念の体温が伝わってくる、こっそりと深呼吸をすれば知念の匂いがした。少し恥ずかしいさぁ。
話しかけたらすぐ答えてくれるし、こんなにも傍にいるのに、知念がわんのものじゃないのは何で何だろう。
恋してる自分、って本当に面倒くさい。ちょっとしたことで一喜一憂するのはもうやめにしたい。
そうやってもやもやしてるうちに学校についちゃって、知念は門を入った脇の所で自転車を一時停止する。登校終了のオシラセ。
「じゃぁまた部活で」
「ん」
知念はひょいと片手をあげたかと思うと、ふいっと駐輪場の方へいってしまった。
そっけなさは200%、これが毎朝のスタンダード。わったーの関係なんか所詮こんなもん。わんの青春なんてどうせしょっぱいさぁ、なんて開き直りながら教室へ向かう。向かった先には騒がしい仲間たちがいる、それが、ちょっとした救い。

「あちー」
「ジャージ脱げばいいさぁ」
「ヤだ」
太陽の下、日陰も何もない運動場で体育なんかしたら開始ちょっとで汗をかく。じわじわとにじみ出る汗と一緒に、さっきの切なさも出てってしまえばいいと思う。からっとした天気なのに、自分の内側だけが湿っぽくて厭になる。
「凛、見とけよー!なまからでーじちばるんど!」
「ハッ、やーなんかわんぬ足もとにも及ばねーらん」
「フラー」
競い合って疲れて一休みしてると、やっぱりまた知念のことを考えてしまう。なんで?なんでわん、あんな不気味な奴好きなんだろ?今頃教室でくしゃみしてっかななんて、校舎の方を見上げたら、白い前髪の男……見紛うものか、知念が窓際の席に座っていた。気付いてくれないだろうかと思って見つめていると、気持ちが通じてしまったんじゃないかっていうタイミングでこっちへ顔を向けてくれる。
毎回うわやばいどうしようって目をそらそうかなって思うけど、その前にいつも知念は小さく手を振ってくれる。わんは偶然を装って手を振り返す。知念がわんを見ている、ただそれだけで、緊張を通り越して自然と頬が緩んでしまうさぁ。
ただそれだけのために、わんは1時間の間にちらちらと校舎を気にかけている。偶然を装って。気付いてほしくて。

わんはその作り出したかのような偶然を、直接口に出すことはない。
次の授業の時も手振ってなんて口が裂けても言わない。
また、放課後は部活、明日の朝は自転車送迎と同じことを繰り返しては、
一喜一憂するだけの恋を捨てきれずにいる。





まさかのオマケで凛くんside。もどかしさというより、読み手のモヤモヤ感をあおる結果になっていたら……本当……スミマセ……。お粗末さまでした。(2011 03 22 jo)