例えば、

僕が君に恋をしているなんて話をしたら、

君は笑うだろうか。




キスと、




「凛は、ちゅーって、したことあるかや?」
「……えッ?」

携帯をしきりにいじっていた凛は、その動作を止めてぎょっとした顔で俺を見てきた。……すごい顔。

「な、何?」
「ちゅー、したことあるかや?」
「ぬーでそんなこと、聞くかや?」
「2月だから」

適当な理由をつけてごまかすと、凛は焦った風にそっか、と言って頭をぽりぽりかいた。

「なァ」
「あ、あるよ……キスくらいっ」
「あるんかや?」
「ふつーだよ、今時っ」
「ふーん」

あるんか、キス位、か……今時普通なんか。

「キス、どんな味した?」
「え?」
「ちゅーしたことあるんだろ?」

う、と凛は小さく呻いた。窓から流れる風が、凛の髪をゆらす。

「ちょっと、」
「えあっ?」

教えて、

「凛の味、教えて、」

迫ったことなんて、一度も無い。少し顔を近づけただけで、凛は頬を赤らめた。
唇が触れそうになる……その瞬間、

「失礼します」

ガチャリ、とドアが開いた。永四郎は勢いよく離れた俺達に、首を傾げる。

「どうかしたんですか、二人共」
「何も、ないっ」

凛はバタバタと走って部室から出て行ってしまった。永四郎は不思議そうな顔をして、残っている俺を見ると、早く出ろと顎をしゃくった。
はいはい、永四郎は怖いからとっとと逃げるさぁ。
部室を出ると、冷たい風が吹いてきた。そして、小さい凛の後ろ姿。うずくまって頭を抱えているのがおかしくて、俺は静かに歩み寄る。

しちゅんよ、凛。
ぺろり、と触れた唇の味を確かめたくて、舌舐めずりをした。



(2010.02.22 / 時雨)