例えば、

僕が君に恋をしているなんて話をしたら、

きっと君は笑うだろう。




俺と、




「凛は、ちゅーって、したことあるかや?」

え、と俺は声を上げて、携帯をいじる手を止めて知念を見れば、奴は憎たらしい程長い脚を組んで俺を見つめていた。……ドキドキする。

「な、何?」
「ちゅー、したことあるかや?」

何で知念がそんなこと聞いてどーするかや!?2月だから、とまさかの理由をつけて笑う知念を、俺はでーじ凝視した。

「なァ」
「あ、あるよ……キスくらいっ」

ああ、強がり!本当は一度もそんな経験ないのに強がって、俺のバカバカーっ!

「あるんかや?」

不思議そうに見てくる知念に、俺は今時ふつーだよと返した。ていうか、そんなこと聞いてくるって事は、知念も一度も……?

「キス、どんな味した?」

え?

「ちゅーしたことあるんだろ?」

思わず小さく呻いた。そんなん、知らん。裕次郎は黒糖の味がするとかほざいてやがったが。


「ちょっと、」
「えあっ?」

うわ、間抜けな声。知念は部室においてあるベンチから立ち上がり、俺に近付いてきた。

「凛の味、教えて、」

ぬわにぃぃい!?ちょ、ちょっとまって知念、わゎ、まだ俺には心の準備があああ……

「んっ……」
「失礼します」

ドアップだった知念の顔が急に引いた。永四郎が微かに眉をひそめて、鞄を床に置いた。

「どうかしたんですか、」

ちらりと俺を見て、微笑する。
「二人共」
「何も、ないっ」

俺は走って逃げた。永四郎が不気味だったせいもあるけど、何より、その場にいた知念が一番怖かった。
あいつ、何考えてるんさぁ、

怖い、

「あ――……」

頭を抱えて、思わずしゃがんだ。悩むのは、苦手。考えるのも、嫌い。
でも、

しちゅんよ、知念。
そっと触れられた唇に触れた。
まだあいつの温もりがあるような、そんな気がして。



(2010.02.22 / 時雨)