例えば、

叶わぬ恋こそ燃え上がってしまう、そんなものだと言ったら、

貴方はどんな表情を見せるのだろう?



お前と、



「…キスって、どんな味がするのかなー」
「退屈そうですね、甲斐クン」

ふわあ、と欠伸をしながら、裕次郎はそんなことを呟いた。思わずじっ、と唇に目がいく。

「黒糖の味とかしたら、最高ッ!」
「貴方が好きなだけでしょう?」

ばっさりと切り捨てればうぅ、と彼はすぐ怯んで黙り込んでしまった。
言い過ぎたか?

「永四郎って、ちゅー巧そーう」
「……はァ?」

…馬鹿か、こいつは。

「人妻とか、たぶらかしてそーう」
「どういう意味ですか、それ」
「そういう意味だばあ」
「…へぇ、そうですか、」
「あ、怒んないでー」
全く、何を言い出すんだ。でも、彼の言っている事は一部合っている。
キスは人並み以上の技術を持っている筈だ。一応豪語できるだけの物は持っている、と思う。
それだけ、無駄とも言える経験をしてきましたから…ね、

「裕次郎、」
「んん?」
「キス、教えてさしあげましょうか?」
「ええッ」

驚いて目を見開いた裕次郎を、逃がすまいと抱き竦めた。
口付けると、彼はより一層目を見開き、固まる。舌を差し込むと、んっ…と鼻から抜けた様ないやらしい声を出した。

「はっ…あ、えーしろ、あ、」
「…存外、いやらしい人なんですね」
「は、あ……永四郎、やっぱエロイんさぁ」
「悪いですか?」
「うっわー、開き直りよったしーッ」
「はいはい、」

よしよし、と頭を撫でてやれば、裕次郎はすぐに黙っておとなしくなった。 扱いやすくて、本当に便利。

「なァ、永四郎」
「ん?」

優しい声が出た。…俺らしくない。

「…俺って、永四郎の、」
「あぁ、もうこんな時間…早く行かないと、あの二人は絶対サボリますよ…平古場クンと知念クン」

席から立ち上がり、二組から出る。裕次郎はすぐ追いかけてくると思ったが、中々来なかった。
そろそろ、俺には飽きましたか?でも、



しちゅんよ、裕次郎。
たとえお前が嫌がろうとも、何処かへ誰かと逃げようとも、
俺は絶対、離さない。





(2010 02 22 時雨)