好きな子には好きな子がいる。 叶わない恋、それはお互い様なのかなぁ。 「……」 黙って物欲しそうに眺めている時点で、俺は気がついてた。 こいつ、あいつのこと好きなんだなって…… (あぎゃん綺麗な面して、まさかホモなんてな) ま、人のこと言えないが。なーんて。 「白石、」 「ん?……ぅわ!」 背後から歩み寄り、ふっと耳に吐息を吹きかけてやった。白石は驚いた表情で振り返る。 「ななな何やねん、千歳ぇ」 「はは、吃驚したとや?」 「当たり前やん!ほんま、心臓に悪いわぁ」 「すまんなぁ」 と言いつつ、こんな意地悪してしまったのは、あんまりあいつばっか見てるから。 少しばかり嫉妬したから。 こっち見て欲しかったから。 (子供みたいな理由ばっかりたい……) 「……あれ?」 部活を終えて。俺は忘れ物を取りに部室に戻った時のことだ。 謙也と財前と擦れ違った。また明日、と言葉を交わし、ふと違和感を覚えてもう一度二人を振り返った。 互いに身を寄せ合い、隠す様に繋がれた手と手。ぎゅっと繋がり合ったそれを見て、俺はふいにあいつの物欲しそうな、哀しい横顔を思い出した。 叶わない恋。幸せそうに微笑む結ばれた彼らは、あいつの"夢"を壊した。 「……今日は、掃除当番」 それならまだ部室に残っている筈、と俺は足早にあいつの元へ向かった。 会いたくて会いたくて、重い部室の扉を開け放つ。 「白石!」 「……千歳っ?」 白石は床に蹲っていた。俺を確認してから、ぐいと目元を拭い、箒を持って立ち上がる。 「どないしたん?忘れ物か?」 「……白石……」 いつも通りを装う白石。だが目元は赤くて、俺はすぐに悟った。 こいつも、見てしまったんだ。 「……っ」 「千歳?」 俺は何も言わずに抱き締めた。何を考えたか分からない。けど、体が勝手に動いた。 ただこいつを抱き締めたかった。 「……ちと、せ」 白石の目から、ぽろりと雫が零れる。俺は熱くなった頬を拭ってやり、じっと白石を見つめる。 「……泣いても、よかよ?」 「う、ん……」 理由は分かり切っている。だからこんなにも優しくなれる。 こいつには、幸せになって欲しかったから。 でも、それなのに。 「なぁ、白石」 「……ん?」 くすんと鼻を鳴らしたあいつの、あの日吐息を吹きかけた同じ耳に、残酷な言葉を囁き掛けてやった。 「……―――」 「え、」 強引に奪った唇。白石の目には俺しか映っていない。恐怖の色を添えて。 その目の色を見て、俺は少し後悔した。 だから決めた。 「……もう、言わんよ。白石を困らせることは」 「千歳……」 俺は足早に部室から出ていった。来た時と同じ様に。 好きな子には好きな子がいた。 叶わない恋、それはお互い様だった。 言わない気持ち (2010 08 27 時雨) |