寒い。
冬の日は、あの夏の暑さがとても懐かしくなる。
常夏の島に、故郷に、俺はもう何年帰っていないのだろう。



「ただいま」
「あえ?!永四郎?!」
島についてすぐに、俺は地元の酒屋へ立ち寄った。大きなスーツケースを片手に店に入ると、中でレジ打ちをしていたあいつが目を見開いて駆け寄ってくる。
「いつ帰ってきたんか?」
「今さっきです。丁度良い頃合いの船の予約が取れたのでね。入社して初めて有給取りましたよ」
「はぁや。お帰りなさい」
数年ぶりにあった彼は相変わらずで。俺は内心ほっとしていた。久々に会ったせいか、それとも相手が相手だからか、俺は言わなくても良い様な余計な事をべらべらと喋った。その間、彼はにこにこしながら荷物を取り、茶まで用意してくれる。
「会社、大変?」
「お陰様でね。まぁ、この布教の中売り上げも伸びてるみたいですし」
「そうかー。わんはこの通りさー。地元民さまさまで生きちゅうんどー」
「そうですか」
「うん」
「……」
静かに茶をすする。懐かしい味がした。
「……裕次郎」
「何ー?」
笑顔でこっちを向く。俺は徐に彼の唇を奪った。
「んっ……」
「ねぇ、」
「な、に、」
「寂しかった、ですか?」
「っ!」
急に裕次郎は涙目になる。そして、俺の服のすそをぎゅッと握り締めた。
「当たり前やっし……!」
「……待たせてしまって、すみません」
彼は静かに頭を振る。あの頃と何ら変わらない姿で、思わず微笑んだ。
「変わらなくて、安心しました」
「変わったさぁ、もう、27よ?」
「でも、」
両手で顔を覆ってやると、とても温かかった。裕次郎はじっと、こちらを見つめてくる。
「どうした?」
「やーは、変わったね」
「え?」
「……優しく、なった」
「それは、良かったです」
「やーが、内地の大学行ちゅんてあびてから、もう、8年だね」
「もう、そんなに?」
「うん。わん、ずっと待ってたんだもん。永四郎、いつ帰ってくるかなって」
「そう……」
髪を梳いて、再び口を塞ぐ。彼は抵抗しなかった。いや、彼は今までずっと、俺に対して抵抗した事はなかった。
「え、しろ……」
「うん……」
「布団、行く?」
「あぁ……」
あの頃と変わらない、甘えた声で、裕次郎は俺を誘う。俺はもちろんその誘いに乗った。
きしむ階段を上り、彼の部屋へ向かう。そして、
「んぅ……っ!」
扉を閉めた瞬間から、始まった。俺は彼を抱きかかえ、布団に組み敷く。唇をむさぼりながら服を脱がし、胸に触れた。熱い。
「や、ん……永四郎っ!」
「何?」
「恥ずかしい、からっ……あんま見んで」
「何で?」
「もうテニスしてねーらん。筋肉落ちたし、甘い物好きだし、昔みたいな……」
「お前が欲しい」
俺は口早に告げ、抱き締めた。裕次郎は小さく頷き、徐々に開放していく。
「ん、あ……」
「悦い?」
「う、ん」
俺は笑み、やわくなった所に己を収めた。中がきゅう、と切な気に締まる。
「裕次郎……」
「あ、ん……っ!やっ……あっ」
焼けた肌に唇を触れ、全てを中に入れた。裕次郎は苦しそうに喘ぎ、眉間にしわを寄せる。
「……キツいか?」
「う、ん……8年振り」
「8、年……」
裕次郎は笑顔で頷いた。彼は8年もの間、浮気をする事なく俺の事を待ち続けてたのだ。上京してしまった俺の帰りを、今まで待っていたのだ。
「……永四郎?」
「え、あ……」
「ぬーがや?泣いちゅう」
久々に、人前で泣いた。多分これも8年振り。彼が泣く事もなく笑顔で俺を見おっくた日、東京へ向かう飛行機の中で、彼が愛しくて泣いた。
恋しくて泣いた。
「……裕次郎」
「う、ん」
「すまない、愛してる」
「……うん」
裕次郎は幸せそうに頷く。愛しい彼の唇に口付け、8年という長い年月の空白を埋める様に、二人で愛し合った。



「のど、かわいたね」
「水、持ってきましょうか?」
「わんがするのにー」
「腰、立たないでしょ?」
「どうせ歳ですー」
裕次郎はすねて寝返りを打った。俺は冷たい水を差し出してやる。
「すねてる」
「すねてねーらん」
「子供みたい」
「なーっ!」
「うじらあさん。しちゅん」
ムキになった彼が文句を言おうとして振り返った所で、俺はキスしてやった。裕次郎は顔を真っ赤にさせる。
「フラー」
「フラーでいいですよ」
「むぅ……」
「……今後の事、真剣に考えなきゃいけませんね」
「え?」
「今後の、俺達の事」
裕次郎はとても嬉しそうに笑い、俺に抱きついた。
「うんっ、わったーの、これからの事っ!」
「楽しそうですね」
「うん、だって、わんは永四郎大好きやくとぅ!」
無邪気な彼。俺はもう一度裕次郎を押し倒し、覚悟を決めた。
もう、離さない。



それから、
俺が沖縄に戻り、新しいカンパニーを開いて、裕次郎と2人で穏やかに暮らし始めるのは、もう少し先の話。





(2011 02 09 時雨)