「ちーねーんっ!!」
「わっ、」
また始まった。俺は密かに眉を顰め、読んでいる本越しに目の前でイチャつくカップルを盗み見る。 2組の平古場凛と6組の知念寛だ。ちなみに両方男。それぞれタイプが違うから、端から見ればかなり異質だ。
同性愛者なんて世間からすれば忌み嫌われる物に、まさか3年間苦難を共にしてきた仲間がなってしまうなんて思いも寄らなかったが。

そして今日も、この部室で彼等の大迷惑な愛は育まれる。

「ちゅーっ、ちゅー!」
「はいはい、永四郎いるから駄目さー」
本当にその通りだ。内心何度も頷きながら俺は思った。所構わずイチャイチャするのは正直やめて欲しい。見てるこっちも恥ずかしいというのに、金髪馬鹿……平古場クンは不満そうに口を尖らせ、知念クンに絡み付いた。
「えー、いいじゃん、ちょっと位」
ちょっとって何ですか。
「永四郎、見てる」
「見せつけたらいいんさー」
「フラー」
フラーだ、フラー。人間の言葉が分からないのかこの人は。俺の眉間に刻まれた皺に気付いている知念クンは、また後で、と平古場クンを宥めるが、彼は聞かない。
「ちょっとだけー」
「……しょうがない、さー」
知念クンがチラリとこっちを見て、唇で「わっさん」と伝えた。
別に知念クンは構いませんが、この言うことを聞かない大馬鹿者は何とかならないのか……今度良い病院紹介しますね。
「んーっ、んー……」
平古場クンは瞳を閉じて唇を突き出した。目を伏せると彼は睫毛が長い。黙っていれば結構な顔立ちをしているのだから、少しは頭を使えばいいのに、彼には学習能力がない。
知念クンも知念クンだ。少々平古場クンを甘やかし過ぎだ。こんな頭の悪い人と付き合う彼の気も、実に理解不能。まぁ、理解する気もないが。
しかし、もうじき彼等はキスをする。じりじりと唇を寄せ、重ね合う。
……俺の目の前で。
(……不純)
そして。
「んぐっ」
知念クンが酷く間抜けな声を出した。平古場クンも目を見開いて驚いている。
俺は、2人の間に割り込んで、知念クンに口付けをしていた。
何故だかは分からない。けれど、急にしたくなったのだ。
じわり、と知念クンの目に涙が浮かぶ。
「あーっ、永四郎!!ちゅーした!」
「五月蝿いですよー。貴方、」
「やしが、あっ」
ちゅ、と平古場クンの唇も啄んでやる。
平古場クンは顔を赤くしたり青くしたりして、まだ我が身に起こったことを理解していない様子だった。
「ふぇっ?えぇ?」
「少しはTPOを考えなさい」
そう言いながら部室を後にする。背後から、
「考えてないのはやーの方やっし!!」
と怒鳴られた気がしたが、



謝る気は毛頭ないですよ。
そうニッコリ笑ってやった。














チョココロネが背景なのはあいつのせいです……(2010 08 24 時雨)