カチコチカチコチ。
時計の秒針が回る音。
山崎は目覚ましが鳴る前に起き上がった。
半裸状態の自分の体に溜息を吐き、隣に寝る男を恨めし気に眺める。
狭い1LDKに無理矢理布団を敷いて、しかも薄っぺらな布団に男二人が敷き詰められるように寝るなんて。
(有り得ない)
有り得ないと思ってたことが、今現実として起こっている。
「な、怒ってる?」
「怒ってません」
山崎はキスマークだらけの体を隠すように制服に腕を通し、目の前にいる男をなるべく見ないようにした。
全裸の男は情けなく眉を下げ、山崎を見つめる。
「こっち、酔っ払っててよ。あんま……その、覚えてなくて……」
「ですよね、まさか教師が生徒に手を出すなんて有り得ませんしね」
「ああぁ、やっぱ怒ってるじゃん」
「取り敢えず服を着てください」
山崎は脱ぎ散らかしてあった緑のジャージを押し付ける。
「大体、あんたに一泊誘われた時点で覚悟してましたからね」
「寛大だなぁ、ある意味」
「早く着替えないと遅れますよ、永倉先生」
「おぉ、そうだった」
永倉は焦ってジャージに着替え始める。山崎は使用済のコンドームやティッシュをごみ箱に投げ入れ、布団を畳んだ。
「じゃ、一緒に行くか!」
にこやかに笑う永倉。山崎は僅かに眉を寄せた。
「っもう……」
永倉の家を出ると、ぎゅっと手を握られる。
「誰かに見られたら……」
「見られねーよ、こんな早朝に」
仕方なしに、山崎は手を振りほどこうとはしなかった。
「たまにはいいだろ?こういうのも」
「……同伴出勤?」
「何かやらしー響きだなっ」
永倉は豪快に笑うと、山崎の歩調に合わせて歩き出した。
「あっ……あ、あッ……!」
「……山崎の匂いがする」
溢れ出た物を掬われ、舐められた。
山崎の頬が紅潮する。
「せん、せっ……」
「中、もうぐっちょぐちょ。ゴムの意味ねぇな」
「っあん」
いきなり引き抜かれ、山崎の中が切なく蠢く。永倉は既に使い物にならなくなったコンドームを外すと、そのまま山崎に挿入した。
「あ、あっ!生でっ……」
「あっちいな、山崎ん中……とろとろだし、俺まで溶けそう」
思わず耳を塞ぎたくなるような台詞を耳元で吐かれる。
山崎は唇を噛み締め、抽挿に堪えた。
「あっちい……」
「あ、やっ……!」
「ぎゅうぎゅう締め付けられたら、こっちもイッちまいそうになる」
「や、だ……中出し、はっ……あんっ!」
ぐちゅぐちゅと出し入れされ、山崎は震えた。
「おかしく、なっちゃう、永倉せんせっ……あ!」
中出しをされ、山崎はくたくたになった。しかし、永倉は山崎を離そうとしない。
「今夜は……」
「やだ、永倉先生っ……もう中出ししたでしょう?」
「足りねぇよ……山崎、もっとくれよ、お前を」
「んっ!」
ぐっ、と奥に差し込まれる。
「先生……」
深く口付けられ、山崎は全身の力を抜いた。抵抗したって無駄だから。
「永倉先生っ……」
激しく愛をぶつけられ、山崎は声が枯れるまで啼いた。
布団の傍にあるビール缶が倒れやしないか心配になったが、そんなことにはもう一瞬にして構っていられなくなった。
(おっきいっ……!)
何度も何度も、求められるままに山崎は永倉に捧げた。
一晩中、どちらかが堕ちてしまうまで。
(なのに覚えてないって……)
山崎は少し前を行く永倉を睨みつけた。
仮にも恋人同士なのだから、山崎だって勇気を振り絞って最後まで許したのに。
(……馬鹿)
「お、そうだ山崎」
「何ですか」
ムスっとしながら見上げると、楽しそうに笑う永倉と目が合った。
「今日も泊まりに来いよ」
「……あんた、」
「鍋すっぞ!鍋!んで、今夜こそ覚えててやるんだ」
「……何を?」
永倉は少し屈んで、耳打ちする。
「セックス」
「っ!」
「勿体ないだろ?山崎かわいんだからよ」
「っ馬鹿じゃないですかあんた!」
山崎は真っ赤になりながら抗議しようとしたが、唇で唇を塞がれて何も出来なくなった。
「もうっ……!」
「そんじゃあ、」
校門の前で、永倉は名残惜しそうに手を離す。山崎はその感情さえ掻き消すようにぎゅっと拳に握り締めた。
「また、後でな」
「……はい、先生」
永倉は投げキッスを飛ばし、スキップでもしそうな足取りで行ってしまった。山崎は足早に下駄箱に向かう。
あの楽しそうで、嬉々とした表情が目に焼き付いて。
「……反則、先生」
そんな貴方だから、何もかも許してしまうのです。
(2011 03 07 時雨)
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