たまに思う。
「教師と生徒」という、この関係がなければって。
「おらァ、席に着けよ〜」
俺の担当は数学。んで、今日は初っ端の1時間目から山崎のクラス。ちょっと複雑。何でって?俺は山崎が好きだから。
日直のやる気ない号令の後、俺は早速教科書を開き、黒板に向かい文字を書き始めた。山崎に背を向ける様に。
山崎は真面目な奴だから、授業はいつも真剣に聞いてくれる。じっと俺を見つめて、解説を聞く。たまに、不覚にもドキッとしてしまう。
そんなにじっと、好きな奴に見つめられたら誰だって……
「永倉先生、どうかされましたか?」
生徒に聞かれて、はっと我に返る。
「顔、赤いですよ?」
「熱あるんじゃねぇの?授業なんかやめて保健室行ってきたら?」
平助の言葉に俺は黙って首を振った。
「いやっ、今日暑ィからな!」
「新八っつぁんは暑がりだからな〜!」
「平助〜、問9できたんか?次当てっぞ〜」
「酷ェよ!」
「今日はお前の出席番号の日だからな」
「くっそ〜」
そんな俺と平助のやり取りを見て、クラスの連中がどっと笑う。でも、あいつだけは笑ってない。ただ俺を見つめて、何か考えてると思う。何を考えてるかは分からないが、俺は視線には敏感な方だし、見られてたらすぐ気付く。特に、山崎のは。
(あいつァ、特別だ)
山崎の白い肌、薄っぺらい胸、柔らかな内股……まぁ、一部妄想だけど、全てが愛おしいと思う。
勿論、誰にも気付かれちゃいけねェ感情だ。
だって、「教師と生徒」だから。教師は生徒を、好きになってはいけないから。
きっと、あいつは卒業したら、俺のことを忘れちまうと思う。いや、あいつにはその方が良いのかも。
山崎は若いし、将来有望だし、教師連中からの期待も厚い。そんな良い生徒を、俺みたいなちゃらんぽらんな奴が奪っちまっちゃあいけねェ。絶対に、そんなことはしちゃならねェんだ。
「平助、できたか?」
「ま、まだまだ〜!」
「できねェなら、他の奴に回すぞ?えーっと……次、は……」
あいつと目が合う。ビリッと電流が流れたみたいな感覚。
嗚呼、こいつは俺のことが好きなんだな……なーんてな。
「……山崎」
「はい」
「じゃ、問9の(1)からな〜!」
俺は教師。あいつは生徒。
卒業しちまったら、もうそれっきり。
だから、俺は教師らしく、この感情を無視しなければいけねェんだ。
(2011 04 04 時雨)
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