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ラブ・エスケープ

「今日は新しい子が来るよ」
監督が撮影前にそう告げに来た。
割とタフそうな子だから気をしっかりね、とにやにやしながら言うのは、体力の無い俺を揶揄しにきただけなのだと思う。

職業、男優。
男の下であんあん喘ぐだけの簡単なお仕事。

……もちろん簡単なわけないけど。
監督の要望にはこたえなきゃいけないし、そりゃ掘られるのは気持ちいけど、痛いときだってあるし。
それでもこの仕事を辞めないのは俺の肌に合っている、そんな気がしているからだ。何より、リスクは高いけれど気持ち良いコトをしてお金を稼げるのなら、美味しい仕事だとは思う。

そう、とても美味しい。

「んっあ!」
俺の周りのスプリングがぐぎぎと音をたててひしゃげた。その日の相手はかなりの巨漢で、俺を壊すのにおあつらえ向きの ―― 監督好みの男で、筋肉が異常なほどに発達し、肌は香ばしい匂いでもしそうな褐色だった。野性的な雰囲気を感じとって、ずくんと腰の奥が脈打つ。目が合った瞬間、本能が勝てないと危険信号を点滅させる――が、俺にとってそれは“快楽予報”に過ぎない。
「う、わっ……ひゃ、」
身に着けていたシャツがいとも簡単に破られた。破れた服の間から覗いた自分の肌に男が唇を寄せてじゅっと吸うと、甘美な痛みでそこが赤に染まる。俺の両手を片手でベッドに縫いつけた男は、俺に覆いかぶさる様にしてべろりべろりと舐め上げてきた。舐めたところに男の荒い息がかかるたびに俺は身体を捩った。呼吸がかかるだけでも、ひどく焦らされているような気持ちになって、尖端からだらだら零れるカウパーが下着をじわりと濡らしていく。
「んぅっは、ぁ……や、あん……」
じっくりと味わう様に胴回りを撫でられ、舐められ、吸われ、胸の突起も痛い位に弄られた。このまま股間からじわじわ身体が溶けてしまうのではと快楽に酔ってぼうっとしていたら、いつの間にやら早く触れて欲しいと思っていた場所の衣服もいつの間にやら剥がれ、恥ずかしいくらいに期待で反り返った股間のあたりにぬっとりとローションをぶっかけられた。ぎらぎらと光る獣のような目が俺をじろりと見た。頭で危険だとわかっていながら、本能が快楽を欲しすぎてくらくらする。早くくれと言葉にする余裕もないほど、身体ばかりが先走り、興奮していた。
「いやらしい顔だな」
「あっ、あァンっふっ……!」
ぐ、と俺自身が男の手に握られた。その大きな手に握られてしまうとあまりにも貧相に見えてしまうそれは、握られたのが嬉しくてピクンと跳ねた。その様があまりに滑稽で恥ずかしかったが、男は何ともない風に、上下運動を加え始めた。
「うっひゃぁああっあぁぁんやぁ、や、やぁ……!」
今までに加えたことのない力。力にもスピードもついていけなくて呼吸をするのがやっとで、ほんの数回擦っただけなのに、情けない声が自然と洩れるのと同時に尖端がはじけた。
「……早過ぎる」
少し不満げなその声に、また膨らんだ期待がすぐ身体に現れた。ひどく、されるのだろうか。脚の間の中心に、ぐんぐん血液が集まっていって熱くなるのがわかる。つい今しがた男の手を汚したばかりのそれは、また汚してやるとでも言いたげに主張を始めた。
「ひゃっ」
さっき達したばかりの尖端を無理くり擦られて俺はまたイきそうになるのを必死に堪えた。前を弄っていた手がするりと後ろに滑らされ、尻の割れ目の奥地付近をゆっくりとなぞる。焦らされてる。物欲しそうにひくついているそこを、避ける様に撫でられた。
「ん、ふぅっあっ、あぁ、は、ぁんっ」
もどかしくて呼吸がどんどんおかしくなっていく。ちゃんと奥に欲しいことを訴えるように自然腰が揺れた。
「ひゃっ……あぅ……うぅんっ……」
「どうした」
ぎらぎらとした目が俺を見おろす。言ってみろと少し嘲る様な視線だけで達しそうなのに、焦らすなんて最低だと内心毒づきながらも上擦った声が 「ほ、欲しい」 と素直に快楽を乞う。満足気に男が唇をべろりと舐めたと思いきや、ぐりりと指が付きたてられてあっさりと体内に沈められた。自分でもわかるくらいに、内壁が男の指に吸いついていく。早く、早く、もっと早く奥に欲しいのに、なかなかめちゃくちゃにかき乱してくれない。
「やぁっ焦らすな……もっと、はや、く、おく、もっと、」
わざとらしく濡れた瞳で男を見上げたら、さっきの野性的な笑みはどこへやら、一瞬戸惑ったような顔をした。新人だから慣れてないのかもしれない。そもそも男とちゃんと寝たことないんじゃない?と思ったけど、すぐに中にいれられた指が激しく暴れだし、脳裏をよぎった予測は瞬時に払拭された。
「いっ、ひゃっぁあああんっあんっあっあああ、んっあ」
キモチイイ。無理やりに指を追加されてかき乱されて、無意識に腰がはねる。男は何も言わない。そこで、「ヤらしい奴め」とか「淫乱」とか罵られた方が俄然燃えるのに。
「ね、ねぇ、ちょうだい、それ、ほしいっ」
俺は完全に淫乱モードだ。ぶっちゃけ、さっきから俺の視界の端にちらついている男のそれは、今まで見たことないくらいに、大きくて、太かった。欲しい。欲しい。奴のそれが、欲しくて欲しくてたまらなかった。
「ぶちこんでぇっ」
はち切れそうなくらい勃起するそれが中に入るのを想像しただけで果てそうだった。もう俺の下半身はローションだか汗だかカウパーだか分かんないほどべっとべとで、いつぶち込まれても大丈夫だった。
信じられない質量のそれが不躾に押し当てられて、一気に貫かれる。
「あひぃ!」
挿入されるのと同時にまた先端からびゅくびゅくと白い液体が出て、俺と男の腹にかかる。それをなんとも思ってないかのように、男は俺の片足を持ち上げてずんずんと腰を進めた。
「やっ……――!」
それも、俺が気絶するまで、容赦なく。



目が覚めたらソファで寝かされていた。
服も身体も綺麗にされてて、これで歩けさえすれば帰れる状態だった。
「ふー……」
「大丈夫か」
誰もいないと思ったのに声をかけられて、あわてて振り向くと、そこにはさっきの男がいた。
「え、あ、今日の……」
「峨王という」
「あ……そう、なんだ」
そういえば名前知らないままだったし、そもそもなんで俺の楽屋にこいつがいるんだろうと思いながら、俺は笑顔を向けた。こういう時取り繕うのは得意だ。
峨王が立ち上がる様子もない。しんとした空気がどうも居心地が悪い。帰りたいのに、腰とか、局部がずきずきする。もう少し休んでから帰ろう、ともう一度寝そべった。
「本業なのか」
興味がないことを示したはずだったのにあっさりと話しかけられて、こいつは空気読めないやつなのかと頭を抱えたくなる。
「本業だよ、知らない?」
適当に顔に薄っぺらい笑顔を張り付けて言えば、男は知らないと首を振った。
「君新入りだよね?少しは予習してからくるべきっちゅー話だよね」
「さっきそこでスカウトされた」
「あーじゃぁ完全に日雇いというか」
なるほど、だから若干素人くさかったんだと妙に納得する一方で、素人であの肉体だなんて、そのへんにおいとくには勿体無いなともう一度峨王の身体を上から下まで値踏みした。……良い体躯。そして、今は見えるはずもないが、服の下に息づく性器も……。思いだすだけでじわりと俺のものが反応してしまった。
「また仕事するの?」
「いや……その予定はない。学生だからな」
「が、がくせ……?!」
「男に興味はなかったが、快楽とお金が同時に手に入るなら、これ以上良い仕事はないな」
淡々と話すその男を改めて凝視した。学生って、信じられない。
「ちょちょ、ちょっと待って。学生……?」
「高校生」
「こっ」
高校生で、あんなペニスとセックスって!
監督は本当に俺にとってのおあつらえ向きの原石を拾ってきたらしい。
「高校生がこんなバイトしちゃいけないっちゅー話だよ、なぁ」
笑おうと思ってうまく笑えず苦笑いになった。本当に、色々仕込めばオイシイ男優になれるかもしれない、とマジな思考が働きつつ、自分のものにしておきたいという慾も頭をもたげた。
「まぁ、でも……俺も同感だっちゅー話だよ。オイシイ仕事だね」
「お前、俺が欲しいだろう」
今丁度考えていたことを見抜かれた気がしてギクリとする。そっと峨王をうかがうと、セックスをしていた時と同じ視線が俺の身体の上を滑った。
「……どうして?」
「そんな気がしたからだ」
ふっと口の端だけで笑う感じがすごく魅力的だった。
「ガキにそんなことわかられてたまるかっちゅー話……」
「もしそうなら、そんな仕事辞めて俺のところへ来い」
「ハハ」
乾いた笑いだけで目をそらした俺の中で何かが、脈打った。
でもオトナだからね、そんな簡単には話に乗らないっちゅー話だよ。





もしもシリーズその1。
峨円で「高校生×AV男優」。
峨王は学生でも学生に見えないと思う。ごっりごりだからね、筋肉。 円子は一生ネコっぽい。あの細い体躯。 そんなとこから生まれたこのお話ですが、専門的なことはよくわからないのでなんだか話の構成が謎になってしまいました……。 自己満足にお付き合いいただきありがとうございました^^* (2011 07 22 jo)




 

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