BACK TOP NEXT

コンビニ☆マジック

いつも大体同じ時間にくる客がいる。
甘いものを買う日もあれば、お弁当を買う日だってあるし、雑誌の時だってある。
基本雑誌はジャンプとメンズnon-no。
甘いものには目が無いらしく、新作は必ず三日以内にお買い上げ。
時々、恥ずかしそうにしながらエロ本を買っていく。コンドームも。
彼女がいるのかは知らないが、選ぶ本から見るにノーマルで、特殊な性癖はなさそうだ。
当然わんはなんでもない風に、彼が持ってきた商品を袋に詰める。
商品を渡すと、彼は「にふぇーど」と言って微笑う、それがお決まり。

髪は金髪、痛み気味。
小柄で細くて、ちょっと女みたいな顔をしている。
名前も知らない彼に、わんは秘かな恋心を抱いている。
唯一コンビニでしかお目にかかれないのに、今は好き過ぎてコンビニにいるのが辛い。

たとえば、甘いものを幸せそうな笑みを浮かべながら食べるのか、それとも内心幸せだけどそれを悟られぬように真顔で頬張るのか、それとも誰かにあげるために買っているのか俺は知らない。けどわんは全部想像する事が出来る。彼の表情も、言葉も。
エロ本を見ながら勃起させて、先走り汁で下着も手も汚して、そんなぬっとりとした手で己の性器を扱いてティッシュの中で果てる様も、わんは想像で知っている。
ただ彼女とのセックスは知らない。そんなことには興味がない。 正常位かバックかそれとも騎乗位が好みなのかそんなことはどうでもいい。代わりに想像上で彼を、めちゃくちゃに犯してやる。早洩れな彼も、なかなかイけない彼も、欲しいと悦がる彼も、嫌だと泣く彼も。
もちろんわんがそんな想像をしていることを、彼はみじんも知らない。知らないからこそ、笑ってにふぇーど、などと言ってくれる。
おつりを渡すときに一瞬だけ手に触れられるのを至極幸せに感じていることも、彼は知るよしも無い。違和感をおぼえないほどの、ほんの一瞬。その間に体温と肌質が感覚器官を通して神経系へと届く。その刺激がたまらない。確かめる様に俺はその刺激を反芻してしまう。

もし、もしも、彼と少しでも言葉を交わすことができたら。不自然になることなく触れることができたら。そんなことを毎日思う。
実際問題、わんと彼は、コンビニという媒体を通しても“偶然触れてしまった”程度の間柄なわけで、だからコンビニの外ではきっと何も起こらない。
嗚呼コンビニ。なんでコンビニはコンビニかや。
そんな意味不明な言葉も跳ね返すほど、コンビニの中は明るい。こんな蛍光灯の下じゃなく、昼間の太陽の下で彼を見たら、例の金髪はもっときらきらするのだろうか。月明かりの下なら、しっとりと濡れた様な輝きに変わるのだろうか。そもそもコンビニ以外の場所で別の形で出会っていたなら、わったーはまともな会話くらい交わしていただろうか。コンビニ程の接点しかないけど、ただ唯一の共通点、愛しいコンビニ。でももしこのまま片想いを続けて一人悶々とムッツリ店員を続けるくらいなら、いっそコンビニを切り捨てて諦めるほかないんじゃないだろうか、コンビニよ……。

「えーと、知念、さん?」
おずおずと躊躇いがちに声に驚いて身体がびくりと跳ねてしまった。慌てて振り向くと、そこには例の金髪青年がいた。暗闇にぼんやりと金色が明るい。
バイトを終えてさっさと帰ろうとコンビニから駅までの道のりを急ぎ足で歩いていた最中だったから、まさか声をかけられると思わなかった。意外な人物の登場にわかりやすい表情をしてしまっていたのか、彼は驚かせてすみません、と申し訳なさそうに軽く頭を下げた。
「あの、これ」
彼が差し出したのは小さな紙切れだった。何かごみでも落としたのだと思って手早くそれをポケットに押し込む。
「……どうも」
夜の暗がりでもわかるくらいに頬を紅潮させた彼は
「わん、知念さんとずっと話したかったんです」
と少し上擦った声で言った。
「ヒラコバ リンっていいます。……よかったら、連絡ください」
「っえ」
慌ててそっとさっきの紙切れの感触をポケットの中で確認した。ゴミやレシートなどではない、まぎれもなく綺麗なメモ書きらしい。彼の口ぶりからするに、恐らく連絡先が書いてある。
ずっと夢見てた状況だ、まさか彼の方からくるなんて。
「では、また、」
コンビニで、と付け加えて彼は踵を返し、駅とは反対方向へと走って行ってしまった。わんが止める間もないままに。
嬉しい気持ちよりも、情けない気持ちが先行した。想像上では何度も何度も話しかけていたのに、実際面と向かうと何も話せなかった。それでも今日は初めて、コンビニの外で接触をした。もしかして辞めるとか思ってたから、コンビニが心外だと奇跡を起こしてくれたのかもしれない。
電車に乗ってから、大切なものを扱うかのようにそっと紙切れを取り出して中を見た。【平古場 凛】という文字と携帯の番号・アドレスだけが書かれていた。女みたいな華奢な字だった。

小柄で細くて、名前も「凛」だなんて女みたい。
どうやら彼も秘かに恋心を抱いているらしい。
かってんぐゎ、コンビニマジック!
切り捨てるなんて、辞めるなんて、もう思わないさぁ!





もしもシリーズその2。 「コンビニ店員×お客さん」をちねりんで。もっと色々書きたいことがあったんですが今回は知念サイドのみで書ききってみまし、た。二人の年齢もご想像にお任せします^^凛くんに振り回されて一喜一憂する知念くんが大好きです。もちろん凛くんを翻弄する知念もすきです(どうでもいい)
(2011 07 23 jo)




 

BACK TOP NEXT