僕は、もう。 「……あ、れ?」 「目、覚ましました?」 相変わらず畏まった山崎君が、僕の枕元で薬を調合している。頷いた僕はぼうと天井を見ながら、ふとどうでもいい事を呟いた。 「……夢を、見た」 「はい?」 「昔の夢。もう忘れかけてた、懐かしいあの頃の……」 あの頃は、毎日笑っていた。 土方さんを茶化したり、 一君を困らせたり、 とにかく色々していた。 その度、いつも笑っていた。 土方さんは怒りつつも諦めて笑い、 一君も最後にはうっすらと口元に笑みを浮かべていた。 何があっても、大丈夫だったから。 だから笑っていられたのに。 あの頃は、それを当たり前だと思っていた。 「……ねぇ、山崎君」 「何でしょう」 「僕は、もうそんなに長くないと思う」 山崎君は微かに息を呑む。しかし、すぐにいつもの無表情に戻った。 「君は、こんな僕の看病なんかしてないで、さっさと土方さんの元へ行けばいい」 「そ……れは」 「で、ここからが僕の最初で最後のお願い」 僕は布団から起き上がる。過保護な山崎君は戻そうとしたけれど、僕は敢えて制した。 「……一君に、言伝を」 「はい」 僕は一度目を閉じる。 今まで眠りながら散々考えたけれど、やっぱりこれしか思いつかなかった。 「……愛している、と」 「……はい」 今まで伝えられなかったこの言葉を、君に。 「……確かに、承りました」 山崎君は丁重に頭を下げ、薬を僕に渡した後、部屋を後にした。 僕は一息吐き、苦いだけの薬を白湯と共に飲み下す。 「……一」 僕は、君を残して逝くだろう。 けど、決して哀しまないで。 一のしたい事を、僕の代わりにしてね。 僕から君への、最後のお願い。 (また何処かで会ったら、接吻でもしてあげるからさ) (2011 01 22 時雨) オマケ written by jo |