頭が痛くて目が覚めた。その上、なんだかひどくむかむかする。ちょっとごわごわしたシーツに、あれまた俺ホテル来たんだっけと考えながら寝がえりを打ったら脚にどろりと不愉快なものが零れた。
またやった。いつもコレだ。
身体を起こして隣に眠る男を見おろす。
1人でヤケ酒するとすぐ誰かをひっかける。相手が男か女かはその時々。この癖もいつ始まったかわからないけど、なんだかこういう展開に俺はなんだか慣れていた。
「おーい、すみません、朝ですよ」
昨夜どれだけやったのかはわからないが、喉が酷く掠れて上手く声が出なかったけど、それでも男は目を瞬いてからけだるそうに身体を起こした。
(う、あ)
座高の差。わんもそんな背は低くはないが、座った状態でも身長差を感じた。相手は結構な長身らしい。の割に顔とか首から胴にかけて少し骨が浮くくらい痩せていて、なのにアンバランスに筋肉が付いてる様がちょっとだけエロかった。朝が弱いのか寝ぼけ眼で見おろしてくるその視線に少しどきりとする。
「……ぁ、おはようございます」
まじまじ見ると肌のきめも細かく、夜更かしをした割には(まぁ寧ろセックスしたからかもしれないけど)肌荒れもそんなに酷くないから、わんよりは若いみたいだった。
「やぁ、昨日はわっさん」
「……ン」
目をごしごし擦って俺の顔をもう一度見直した男は、突然、ぼっと音がしそうな程顔を真っ赤にした。
*
『恋人、いるんですか?』
『こんな展開で言うのもアレですが良かったら付き合ってもらえませんか』
一夜限りの関係かと思いきや、可愛い事をいうものだからキュンときて何も考えずにオーケーしてしまった。
後日よくよく確認すると彼はまだ未成年どころか高校生で、己の浅はかさにぞっとした。馬鹿だろ、未成年ナンパしてたぶらかして抱かれて、挙句付き合うとかフラーだろ……。
まして俺の職業、実はえっちなビデオに出演するのがお仕事なのである。言えない、健全な男子高校生しかも恋人であろう彼に、バリネコでAV男優やって生計たててるんばぁよ☆なんて、しに言えない。
言えないままに、付き合っている。
「寛ィ、勉強どう?」
仕事のない日は大体、彼に会いにいく。知念寛、というのが彼の名前で、下の名前で呼ぶと少し照れくさそうにはにかむから下の名前で呼ぶのが癖になった。
「まー上々」
交わす会話は当たり障りのないことばかり。
放課後デートみたいなことして、夕食一緒に食べたりして、気分が乗ったらホテルでHする。
「凛サン、」
「凛でゆたさん」
「本当何の仕事してるの?会えるのは嬉しい。やてぃん時々心配になる」
「アハハ……稼げてないのにおごったりとかしねーらん」
思わず強張る表情筋。なんでもー、一応男優なんだから演技くらいできて当然なのに、まっすぐな気持ちや質問をぶつけられると、強張ってしまうのが情けない。
「……どうする?寛、疲れてる?」
「ううん」
「ホテル、行く?」
「……行く」
素直に頷くからわんはちょっと嬉しくなる半面切なくなって、寛の左腕に自分の腕を絡ませた。そのまま適当なホテルを選んで、部屋までいって、もつれ合いながらベッドに倒れ込む。
「んっ……っふ、……」
息をする間も与えないほどの口づけをもらって、息が苦しくなったら暴れて気付かせる。夢中になると見えなくなるのは若さってやつのせいだろうか。
「っは、ぁ……がっつくなぁー」
「だって凛サン、」
「り・ん!」
「……凛うじらぁさん」
また口づけようとするからぐいと顔をそむけると、泣きそうな顔をされた。
「ふ、フラー。逃げねーらんよ」
「知ってる」
「なんで」
「だって、凛、もうココこんなやっし」
一転してにやにやしながら彼は左手でわんの股間に触れた。
「アー……爆発する」
「今夜帰さねーらン」
「高校生が生意気にィ」
腕を伸ばして寛の頭をぐしゃぐしゃすると
「友達ぬ家泊まるってあびてきたんど」
とおでこに口付けが降ってきた。
「最初からそのつもりかや」
「うン」
1つ1つゆっくりと教え込んだ寛はもうわん好みのセックスが出来る。その快楽に身をゆだねた。凛、キモチイ。凛、すごい。凛、うじらぁ……恥ずかしくなるぐらい耳元で囁かれて、果ててはのぼりつめ、また果てる。最初のセックスもこんだけ気持ちよかったのかもしれない、なんて思いながら、寛がくれる愛とセックスにずぶずぶ溺れていくだけの、夜。
朝が来ればベッドでだらだらして、適当にシャワー浴びて服を着て、またねとホテル前で別れる。もちろん、「またね」のキスつきで。
朝日が眩しくて痛む目を擦りながら
“今日会える?”
ただそれだけ打って送信したら、すぐに返信がきた。
“うん。いつものところ? 会いたい”
また?とかさっき別れたばっかり、とか決して言わない。学生の頃、自分はこんなに良い奴じゃなかったと苦笑しながらすぐに返信を打った。飽きられるのを待とうと思ってたけど、コレが、わんぬ気持ちだった。
“俺も会いたいさァ”