Si vales, bene est; ego valeo - 貴方ガ元気ナラソレハ善イ事、私ハ元気デス -

知念は毎日リハビリを頑張っていると聞いた。裕次郎はちょくちょく病院に行ったりしてたみたいだけど、なんとなく気が乗らなくてわんは行けなかった。
知念のいない練習は、身体の半分が無くなったように空しいもので、ダブルスなのに意味あるんだろうかとか、ぼんやり考えた。ひとりでわざを磨いて、持久力を高めるために走り込んだり筋トレしたりして。たまに他のやつと組んでダブルスの仮試合をやる。そんな毎日に飽きてきた頃だ。知念がじきに退院して、通院に切り替えるというのを裕次郎に聞いた。知念に、早く会いたい、会いたいけど、会いたくない。どんな顔して会えばいいのかわからない。
そんな想いがわんのなかでぐるぐるとせめぎ合っていた。

「りんくん、」
再会は予想もしないときに訪れた。松葉杖を持った知念がひょっこりわんの教室に現れた。
「ち、ちちちち」
「何かァ、幽霊にでも会ったような顔すんなァ」
「も、もうよくなったワケ?」
「通院に切り替えてもらったんさァ。部活はできねーらん、やてぃん学校には来れるんどー」
「そ……か、よかった」
「うん、」
「……」
「凛クン、今日練習出れないけど、一緒に帰ろうさぁ」
「あ、……うん、やてぃんやーぬ彼女は……」
「もう言ってあるから大丈夫、何も気にさんけー。じゃぁ放課後。待ってるさぁ」
知念は松葉杖を器用に使って、普段歩くのと変わらないはやさで廊下を進んでいった。話したかったけど、何を話せばいいかわからなくて、黙ってしまった自分が情けない。席に戻ると、裕次郎が駆け寄ってきて
「何話したの」
と聞かれた。
「大したこと、話してねーらんやっさー」
「ふぅん、」
「何でかー?」
「知念、わんが見舞い行った時毎回凛クンのくとぅ聞いてきたから、凛からいろいろ話してあげたら喜ぶと思うさぁ」
わんぬこと聞いてきたっていうのは、彼女に似ているからなのだろうか、とか、わんぬ頭の中にはそんな邪推しか生まれてこなかった。

部活を終えて知念を捜しに行こうとすると、既に校門のところに立って待っていた。文庫本を片手に読書する姿は夕陽を浴びて憂いをおび、なんだか色っぽく見えてどきりとする。
「わっさん、待ったかや」
どきどきしながら声をかけると、知念はぱっと顔を上げると同時に、本を鞄の中にしまった。
「ゆたさんよぉ」
壁に預けていた松葉づえを取り、ひょいと方向転換する。
「今日も、練習大変だったかや?」
「しに疲れたさぁ」
「早く復帰したいやっさぁ」
「……なんか、最近知念を見るの、廊下か夕焼けの中だけさぁ」
「当然やっし、わったーその時しか会えねーらんど」
眩しそうに知念がわんぬ顔を見た。
「凛クンの髪眩しいさぁ」
「ははは」
そういえば。そういえば事故に会う前に一緒に帰った日も夕方だった、と思いだした。そしてその時に知念は、とひりひりした感情と嫌な感情が一緒くたになったものがゆらりと脳裏をかすめる。
「凛クンなんで、なんで病院来てくれなかったんさぁ」
「え?」
「待ってたのにさぁ」
「……」
「凛クンにも都合があるってことわかってるさぁ、やてぃん寂しかったさぁ」
早口に次々言う知念に反応できなくて、わんは口を半開きのまま、知念を見遣った。
「ダブルスパートナーやっさ、それに友達さぁ。裕次郎は何度も来てくれたんになんでか」
「なんでか、って……」
「キス」
「は」
「キスしたのが、嫌だった?わんぬくとぅもう嫌い?それとも気にしてるの?」
「ちょ、っと、今日やけに多弁やっさ」
「答えて凛クン、」
「わ、……わっさん。どんな顔して会ったらいいかわからなかったんさぁ」
「わっさん、」
「なんで謝るー」
「多分、わんぬせいやさぁ」
「何が」
「やーを不安がらせたのは全部わんぬせいやし。凛クンに期待してた、そのせいでちょっとヤケになったさぁ、多分そのせいで、凛クン、」
ぐず、と知念の鼻がなった。ぎょっとして見上げると、知念はまっすぐ前を向いたまま無表情でぼろぼろと泣いていた。
「ちょっと、待って、知念、なんで泣いて、」
「泣いてなんかねーらんどぉ」
「フラー泣いてるって!泣くなぁ、もー、わんの方が泣きたいさぁ」
「わっさん、凛クンわっさん、」
「だーもう、無表情で泣くとかでーじ不気味やっさぁ」
冗談まじりにそう言ったら、知念の目からもっと涙があふれた。どうしたらいいかわからなくて、背中をそっとさすった。
「凛クン、わん」
「何か?」
「わん、なまの彼女と別れるさぁ」
「えっなんでか」
「凛クンがしちゅん」
一体どういう流れでそうなったのかさっぱり見えなくて、わんは知念の顔をもう一度見た。
「しちゅんやっさぁ」
「へ、……へぇー……――」
状況が飲み込めなくてわんはそれしか言えなかった。
“しちゅん”なんて絶対知念から言ってもらえないと思ってた。でもずっと言ってもらえたらって思ってた。なのに、どうして今このタイミングで、この状況でそんなことを言うのだろう。勝手に彼女つくって、勝手にわんにキスして、勝手に入院して、退院して、ふらりと現れたかと思えば、いきなりこれ?知念は壊れたのかもしれない……?
一体、どういうことかや?





もともと書いてた内容があまりに重くて時雨に不評であったため、と180度転換しまして、暗中模索ですが手探りですすんでおりますですよー。さてどうなる。そして個人的に無表情でぼろぼろなく知念萌え。(2010 09 02 jo)